『なつぞら』から「女性と仕事」の今昔を考える 「小田部問題」の現代に通ずるテーマ性

「出産・育児と仕事の両立」という現代的ジレンマ

 そんな『なつぞら』ですが、目下展開されているのが、なつの「出産・育児と仕事の両立」をめぐるエピソードです。職場である東洋動画スタジオで出会い、最初は反発しながらもともに作品を作りあげていくうち、いつしかたがいに惹かれあっていったなつと演出部の「いっきゅうさん」こと坂場一久(中川大志)は、晴れて第114回で結婚します。なつにプロポーズした最中に製作していた監督映画『神をつかんだ少年クリフ』の興行的不振の責任を取り、東洋動画を辞職した坂場は新居で家事労働を一手に担う一方、妻のなつはベテランアニメーターとして、引き続き新興ジャンルのテレビまんが(テレビアニメ)の現場で奮闘します。

 そのうちに、ついに第119回でなつのお腹に新しい命が芽生えます。なつのおめでたに夫の坂場も大喜びするとともに、仕事を辞めたくないと悩むなつに、主夫である自分が一緒に家事育児を率先してやると宣言します。そして、「仕事を続けたいなら、好きなだけ続ければいい。それで会社がその後の君の仕事を認めれば、つぎからはほかの女性も働きやすくなるだろう。子どもを育てながら、アニメーターを続ければ、そういう戦いにもなるんだよ。君がその道を作るんだよ」と説得します。

 そこに、第121回で東洋動画を退職した先輩アニメーターの「マコさん」こと大沢麻子(貫地谷しほり)が新しく設立したアニメ制作会社に坂場を誘いに訪ねてきます。内心では漫画映画作りへの情熱を燃やし続ける坂場ですが、悩んだ挙句、マコさんの会社でもう一度、漫画映画を作りたい、ただ少なくとも1年は待ってもらって、そのあいだは子育てに専念すると、なつに打ち明けるのです。

 生まれてくる子どもをだれよりも愛情深く育てたい、でも、自分の生きがいでもある大好きな仕事もずっと続けていきたいーーこうしたなつの切実な思いと、にもかかわらず、現実の社会や職場、家族の価値観ではなかなかそういう希望がうまく通らないというジレンマは、何もドラマが描く昭和40年代前半の過去の話でなく、それから半世紀以上経った21世紀の現在でも、残念ながらあまり変わっていないでしょう。ここ最近の『なつぞら』の展開に、強く感情移入する子育て真っ最中の女性や男性の視聴者も多いのではないでしょうか。

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