『凪のお暇』高橋一生は究極の泣き俳優!? 夏ドラマに急増する「めそめそ男子」の中で一番の存在感

『凪のお暇』高橋一生は究極の泣き俳優!?

 こういう慎二を高橋一生はじつに軽やかに演じる。このうえない清潔感にあふれた笑顔がふっと消えたときの怖さ。この変わり身が小動物のように俊敏過ぎて本心のありかをわからなくさせる。高橋にはその特性を有効利用した役が多い。近作『東京独身男子』(テレビ朝日系/19年)は当初番宣で、独身を謳歌する華麗な高スペック男子の話かと思ったら、別れた女性を忘れられないグズグズした人物だった。映画『嘘を愛する女』(18 年/東宝)でも素性のわからない謎の存在だった。彼の特性が世間的に明確になったのは、『カルテット』(TBS系/17年)だ。理屈っぽいが、好きな子には本心を言えない、ちょっと面倒くさい役が多くの視聴者をシビレさせた。ふぐを食べるときのような舌にぴりぴりくる危うさを巧く生かして、今世紀最大の名場面を生んだのが大河ドラマ『おんな城主 直虎』(NHK総合/17年)。史実でもはっきりしない役の本心を、主人公を護るための一世一代の大芝居として、悪役になったという物語は高橋一生の演技によるところが大きい。当時、私はそんな彼に「悲劇役者」の称号を捧げたいと思ったことを書いたこともある。

 めそめそ男子が増えているなかで、高橋一生のめそめそに心が震えるのは、高橋の心の震えが激しく伝わってくるからだ。ライバル役のゴンを演じる中村倫也は俗に言うカメレオン俳優らしく、あのゆったりとした喋り方のようにじわじわとゆっくり色を変え、気づいたらその場を支配するようなタイプだ。一方、高橋は、小動物が天敵から子供がいる巣を護るように全力で逃げ回って撹乱するように、笑顔や元気を振りまいているような気配がある。その必死さが限界を超えると涙があふれる。それが見る者を震わせてやまない。

 第2話で「噛み合わない歯車ってセクシーよね」「男女の悲劇の引き金はね、いつだって言葉足らず」と、凪のアパートの二階に住んでいる老女(三田佳子)が言うが、これがもう高橋一生の資質を表した言葉のようで、高橋一生には素直になれない悲劇のセクシャリティーがある。第1話で顔を覆って泣くときの十本の指の優美さは、その象徴のようだった。

■木俣冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメ系ライター。単著に『みんなの朝ドラ』(講談社新書)、『ケイゾク、SPEC、カイドク』(ヴィレッジブックス)、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』(キネマ旬報社)、ノベライズ「連続テレビ小説なつぞら 上」(脚本:大森寿美男 NHK出版)、「小説嵐電」(脚本:鈴木卓爾、浅利宏 宮帯出版社)、「コンフィデンスマンJP」(脚本:古沢良太 扶桑社文庫)など、構成した本に「蜷川幸雄 身体的物語論』(徳間書店)などがある。

■放送情報
金曜ドラマ『凪のお暇』
TBS系にて、毎週(金)22:00~22:54放送
出演:黒木華、高橋一生、中村倫也、市川実日子、吉田羊、片平なぎさ、三田佳子、瀧内公美、大塚千弘、藤本泉、水谷果穂、唐田えりか、白鳥玉季、中田クルミ、谷恭輔、田本清嵐、ファーストサマーウイカ
原作:コナリミサト『凪のお暇』(秋田書店『Eleganceイブ』連載)
脚本:大島里美
演出:坪井敏雄、山本剛義、土井裕泰
プロデューサー:中井芳彦
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/NAGI_NO_OITOMA/

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