『ザ・ファブル』漫画実写化として上質な一作 アクション×笑いだけにとどまらない本質をよむ

『ザ・ファブル』漫画実写化として上質な一作

  ここまでは予告でわかるような「世界基準アクション×ハッピーな笑い」について語ってきたが、予想外に良かったのが原作にもある裏社会の怖さやそこでしか生きられない人間の悲哀の要素をしっかりと描いていたことだ。原作者南勝久が書くリアルすぎるヤクザ像と比べると美男子だらけにはなっているが、ファブルを取り巻くヤクザたちを演じる俳優陣もなかなかハマっている。

 とくに素晴らしかったのはボスの紹介でファブルが世話になる組の若頭・海老原を演じる安田顕と途中から出所してくる海老原の弟分の小島役の柳楽優弥だ。

 柳楽は事態を引っ掻き回しクライマックスに至るまでのトラブルを作るチンピラとしてこれ以上ないくらいリアルな演技を見せる。小物なのか大物なのかわからない何をするか予想がつかないチンピラぶりを目やちょっとした仕草、言い回しで見事に表現しており、彼がヒロイン・ミサキ(山本美月)をとある理由で脅迫するシーンの恐ろしさは本作のドラマパートの白眉と言ってもいい。そんな弟分の暴走を止めようとするも叶わず、組織の長としての責任を背負わざるを得なくなる安田顕の抑えた演技も素晴らしく、終盤はこの2人が見せ場を持っていった。

 裏稼業でしか生きられないヤクザたちも、幼少期から殺しに必要なことだけしか教わらなかったファブルもある種不憫な存在として描かれている。予告編で流れる主題歌、レディー・ガガの「Born This Way」も本編を見れば彼らのことを歌っているのがわかる。

「私はこの道に生まれてきた、他の道はない」

 この歌は前向きにも後ろ向きにも取れる歌詞で、この映画の主題歌としては絶妙だ。ファブルもヤクザたちもこうやって生きていくしかない。しかし、主人公ファブルはそんな自身の悲しさには気づいていないかのように終始ポーカーフェイス。この映画だけでは彼が1年間の普通の生活の後もそうやって生きていけるかはわからない。だがラストの彼が殺し以外のことで人を元気づけるとあることをする場面は感動的だった。あくまでも彼は彼の道を進んでいる。

 ハイレベルなアクションを描ける土壌を用意しておきながら単にスカッとさせるだけでない後味の人間ドラマを臆せず入れてくるあたりに凄みを感じる。昨今の日本の漫画実写化のレベルが格段に上がっていることを象徴する1本だ。

■シライシ
会社員との兼業ライター。1991年生まれ。CinemarcheやシネマズPLUSで執筆中。評判良ければ何でも見る派です。

■公開情報
『ザ・ファブル』
全国公開中
出演:岡田准一、木村文乃、山本美月、福士蒼汰、柳楽優弥、向井理、木村了、井之脇海、藤森慎吾(オリエンタルラジオ)、宮川大輔、佐藤二朗、光石研、安田顕、佐藤浩市
原作:南勝久『ザ・ファブル』(講談社『ヤングマガジン』連載)
監督:江口カン
脚本:渡辺雄介
配給:松竹
(c)2019「ザ・ファブル」製作委員会
公式サイト:http://the-fable-movie.jp
公式Twitter:@the_fable_movie
公式Instagram:@fable_movie

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