『ゲーム・オブ・スローンズ』はなぜTV史上初のグローバル大作となったのか 時代背景とともに考察
『ゲーム・オブ・スローンズ』が2010年代を象徴する作品だからこそ「酷い終わり方」が正解とするトリッキーな論まで持ち上がった。このシリーズが「ミレニアル世代を定義するポップカルチャー」とされてきたことを考えれば、ある程度腑に落ちるだろう。ドラゴンが舞う中世風ファンタジーだったにも関わらず、『スローンズ』の子どもたちの運命は、2010年代を生きる若者たちの写し鏡だったのだ。最たる例はスターク家の長女サンサかもしれない。理想的な夫婦に愛されて育った彼女は、裁縫を得意として王子様との結婚を夢見る、つまりは社会の「女らしさ」模範に適合する少女だった。しかし「玉座」ゲームが始まったことで立場は一変し、性的暴行の被害にまで遭い、変わらざるを得なくなる。アメリカのミレニアル世代も同じだった。9.11と世界金融危機を通して成長した彼らは、親より豊かになれない年代とされる。2010年代に入ると、社会の価値観も大きく変わり、前世代まではなんとか通っていた「男女で結婚して懸命に働けば幸福になれる」信奉は機能を停止させた。まるでウェスタロスのように、それまでの常識は解体され、政治経済は荒れ狂い、気候変動が若者を襲いつづけた。子どもたちはカオス化した世界の生き残りゲームに投げ込まれたのである。だからUSA Todayのケリー・ローラーはこう書いたーー「スターク家と私たちの違いは、脅える対象がドラゴンか金利かということだけ」。さらにはこの10年間、社会の激変を下支えしたものにソーシャルメディアがある。それらプラットフォームが人々に力を与えた一方で、満場一致で肯定される正義や正解など存在しないことを露見させた。そして、人間たちは争いつづけ、ときに集うことで考えを停止させ、義を暴走させる。『スローンズ』の物語とその反響は、最初から最後までこの問題を指し示していた。サポチニク監督は語る。「決断の正誤に関係なく、我々を人間たらしめるものとは、自分自身への問いかけなのです。それをやめたらーー」。
最後に、未来への問いかけをしよう。“史上初”のグローバルTV大作『ゲーム・オブ・スローンズ』は、“史上最後”のTV大作になるのだろうか? アメリカのメディア陣は悲観的だった。ストリーミング普及により供給と嗜好が細分化した今、「大衆がこぞって観るTVショー」は生まれ得ないとする論が飛び交ったのである。しかし、Voxのエミリー・トッド・ヴァンダーウルフは反対の立場をとった。『ブレイキング・バッド』どころか『LOST』終了時でさえ同じことが言われていたのだから、視聴形態が変わろうと大衆の心を掴む作品は出てくるはずだと。事実、現在は数々のスタジオがポスト『ゲーム・オブ・スローンズ』の座を狙ってファンタジー大作ドラマを企画製作している。たとえば、Amazonは『ロード・オブ・ザ・リング』『時の車輪』。Netflixは『ナルニア国物語』『ウィッチャー』『Cursed』、おまけに日本版『スローンズ』と噂される『Age of Samurai: Battle for Japan』。Showtimeは『キングキラー・クロニクル』、HBOは『ライラの冒険』、そして『ゲーム・オブ・スローンズ』スピンオフを予定している。これらのショーがどうなっていくかはわからないが……もし次なる『ゲーム・オブ・スローンズ』が生まれるとしたら、それは2010年代を征した「鉄の玉座」の幻影を燃やし、人々に新たな地平を見せる作品だろう。
■辰巳JUNK
ポップカルチャー・ウォッチャー。主にアメリカ周辺のセレブリティ、音楽、映画、ドラマなど。 雑誌『GINZA』、webメディア等で執筆。
ブログ:http://outception.hateblo.jp/
ツイッター:https://twitter.com/ttmjunk
■作品情報
『ゲーム・オブ・スローンズ』
Photo: Helen Sloan/HBO
(c)2019 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc.
公式サイト:https://www.star-ch.jp/gameofthrones/