福山雅治が戦っているのは抗うことのできない現実だ 『集団左遷!!』第一章/第二章でテーマの変化

福山雅治が戦うある現実

 福山雅治は「サンデー毎日」5月5-12日合併号(毎日新聞出版)に掲載されたインタビューの中で「横山には横山の正義がある。これが単にパワハラとかトップダウンならただの嫌な奴ですが、横山はそうじゃない。彼には正義がある。だからこそ怖い存在なんです」と答えている。このあたりは序盤から一貫している。

 片岡は、まずお客様の利益を第一に考えるのだが、デジタル化もAIの導入も悪いことではないし、多すぎる支店を統合するのも仕方がない。左遷やリストラも同様で、企業である以上、利益を出さないと生き残れないと、頭では理解している。

 横山の合理主義的な経営方針に対し、片岡は「がんばりましょうよ」と銀行員たちに発破をかけて、ノルマ達成のために走ることしかできない。というのが第一部だった。対して第二部では、正しいことをするためなら、不正に目をつぶっていいのか? という方向にテーマが移っている。

 しかし、横山との対決を描くのであれば、片岡は横山とは違う形で三友銀行が生き残るための対案を示さないといけないのではないか? 今の見せ方だと、反論できないから不正という粗探しをしているように見えてしまう。これがなんとも痛ましい。

 「銀行がここから生き残っていくためには脱銀行しかないのです。古い考えを捨てて新しい理念を持つしかないのです」と言い、デジタル化とAIの導入と27店の統廃合と大規模なリストラ(9500人の人員削減)と引き換えにダイバーサーチという外資系ネット通販会社と資本提携を結ぶ横山のやり方は、一見正しく見える。

 これが、福山がインタビューで語った、正義があるからこそ怖い存在だということなのだろう。不正を暴き、仮に横山を失脚させても、彼の唱える正義は時代の流れである全てを否定することはできない。

 片岡が戦っているのは抗うことのできない現実そのものである。そのため、横山の不正を暴けても、どこか苦い結末となるのではないかと思う。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
日曜劇場『集団左遷!!』
TBS系にて、毎週日曜21:00〜21:54放送
出演:福山雅治、香川照之、神木隆之介、中村アン、井之脇海、高橋和也、迫田孝也、増田修一朗、谷口翔太、橋本真実、市村正親、酒向芳、橋爪淳、津嘉山正種、尾美としのり、三上博史、八木亜希子、西田尚美、赤堀雅秋、パパイヤ鈴木
語り手:貫地谷しほり
三友銀行イメージガール:生田絵梨花(乃木坂46)
原作:江波戸哲夫『新装版銀行支店長』『集団左遷』(講談社文庫)
脚本:いずみ吉紘
プロデュース:飯田和孝、中前勇児
演出:平川雄一朗、田中健太
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/shudan-sasen/

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