『なつぞら』東洋動画のモデルとなる人々は? 日本の「漫画映画」の礎築いた東映動画のレジェンド
手塚治虫が憧れていた美人アニメーター
仕事に情熱を燃やし、なつにも厳しく接するセカンドの大沢麻子(貫地谷しほり)。愛称「マコ」。モデルとされているのはアニメーターの中村和子。こちらの愛称は「ワコ」だった。この頃から“美人アニメーター”と呼ばれており、守衛が「女優さんが間違えてスタジオへ入ってきてしまった」と勘違いしたというエピソードを持つ(真佐美ジュンブログ 2006年8月1日)。作中と同じく、『白蛇伝』ではセカンド(第2原画)と呼ばれるポジションに就いていた。
麻子はなつとは違うベクトルの独特のファッションをしているが、当時の中村についての記事には「着るものはすべて自分のデザイン」と記されていた(『週刊漫画TIMES』59年12月2日号)。その後、長編作品『安寿と厨子王』(61年)の企画の窮屈さに嫌気がさしたアニメーターが一斉に東映動画を退社。中村は手塚治虫の誘いを受けて虫プロに移籍し、設立間もない虫プロを支えた。手塚の漫画『三つ目がとおる』のヒロイン、ワトさんのモデルになったとも言われている。手塚の娘、手塚るみ子は「ワコさん、うちの親父さんが憧れていた方と聞いてる」と明かしていた(ツイッター 2017年6月6日)。
いつも朗らかで、なつに「アニメーションとは命を吹き込むことだよ」と教える人物、作画課のセカンド、下山克己(川島明)のモデルとされているのは大塚康生。下山は元警察官という異色の経歴を持つが、大塚は厚生省の麻薬取締事務所(麻薬Gメン)の補助職員をしていた。
下山が麻子に「拳銃が撃ちたくて警官になったんでしょ?」と言われて「バンバーン」と拳銃を撃つふりで応えるが、大塚は実際に麻薬取締事務所で拳銃を磨く仕事をしており、後に『ルパン三世』(71年)に参加した際はワルサーP38を持つよう提案した。不二子が持つブローニング・ハースタル22は、大塚が麻薬事務所でいつも分解掃除していた拳銃だったという。なお、ルパン三世の愛車、フィアット500だったのは有名な話(選んだのは宮崎駿)。
下山がなつの服装を毎日スケッチしていて、ついに同じ服を着てきたことを当てるエピソードがあるが、これは大塚がファッショナブルな奥山玲子の服装を毎日スケッチしていた実話に基づいている。大塚は奥山が同じ服を着てくる前にギブアップしてしまったそう。スケッチは同人誌『大塚康生のおもちゃ箱』に掲載されていた。