『腐女子、うっかりゲイに告る。』クイーンの楽曲が物語の要に フレディと重なる金子大地の苦悩
傷つけ傷つけられるような“青春の刹那”
そう、このドラマは、お互いに好意も持ちながらもすれ違う、“腐女子”と“ゲイの少年”の関係性をコミカルに描いた、爽やかな青春ドラマなどではなかった。むしろ、映画『ボヘミアン・ラプソディ』の物語にも通じるような、“本当の自分”に戸惑い悩み、ときには自分を騙き、そして他人を騙きながら、傷つけ傷つけられるような……そんな刹那の青春を描いたドラマなのだ。そこで思い起こされるのは……というか、恐らく作者自身も念頭に置いていると思われるのは、映画『ボヘミアン・ラプソディ』でも描かれていた、フレディ・マーキュリーとメアリ―・オースティンの関係性だ。若くしてフレディと出会い恋に落ち、同棲生活を経て、一度は結婚直前までいったものの、フレディが自身の性的指向をはっきり自覚するようになるようにつれ、その恋愛関係が終わりを迎えていったフレディとメアリー。けれども、その後もメアリーは、フレディの相談役兼個人秘書として彼のもとに残り、彼の“生涯の恋人”となったのだった。映画を観ながら、男性と女性としてではなく、あくまでも人間同士として、互いの存在を認め合い必要とし合った彼らの関係性に心を揺り動かされた人も、きっと多かったことだろう。ちなみに、クイーンの「ラブ・オブ・マイ・ライフ」という曲は、そのタイトルのごとく、フレディがメアリーについて歌った曲だと言われている。
無論、映画を観ればわかるように、そこに至るまでの道のりは、けっして平坦なものではなかった。怒りに震えた夜、悲しみに暮れた夜もあっただろう。翻って、このドラマの若い2人……純と紗枝の関係性は、これからどうなっていくのだろうか。今週放送される第5回では、いよいよクイーンの代表曲「ボヘミアン・ラプソディ」が登場する。〈これは現実の人生?/それともただのファンタジー?〉。“ゲイ”という存在に対する、純と紗枝、それぞれの思いを彷彿とさせるような歌い出しで始まるこの曲は、罪を犯した少年の告解と審問を、ロックオペラとも言うべき大胆な構成と展開のなかでドラマチックに描き出した、クイーン屈指の名曲だ。この曲に乗せて、若き魂の“放浪者(ボヘミアン)”である純が選び取る行動とは、果たしてどんなものなのか。そして、その行き着く先に待っている“世界”とは。紗枝の告白を純が受け入れることによって、その様相を変化させていった物語は、この回を経ることによって、さらにシリアスな次元へと突入していくことだろう。その行く末を、手に汗握りながら見守りたいと思う。若い2人に、それぞれにとってのハッピーエンドが訪れることを願いながら。
■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「リアルサウンド」「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。Twtter
■放送情報
よるドラ『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』
毎週土曜日、NHK総合 夜11時30分から11時59分 (29分・連続8回予定)
原作:浅原ナオト「彼女が好きなものはホモであって僕ではない」
脚本:三浦直之
出演:金子大地、藤野涼子、小越勇輝、安藤玉恵、谷原章介ほか
演出:盆子原誠、大嶋慧介、上田明子、野田雄介
プロデューサー:尾崎裕和
制作統括:篠原圭、清水拓哉
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/drama/yoru/fujoshi/