毎熊克哉が巻き起こす人情悲喜劇! 『後家安とその妹』稽古場に潜入

毎熊克哉が巻き起こす人情悲喜劇

 これまでにも数々の相当な“ワル”を演じてきた毎熊だが、本作で演じる“後家安”こと小笠原安三郎もかなりのものである。金にも女にもだらしなく、何かと問題の多いこの男は、今ふうに言えばクズそのものだ。彼の乱暴狼藉ぶりは、目の前で展開される舞台だからこその生々しさが相乗効果となって、危険な色気を充満させる。しかし本作は、三遊亭圓朝の『鶴殺疾刃庖刀』と、それを『後家安とその妹』と題して抜き読みで高座にあげた古今亭志ん生の噺を下敷きにしたもの。毎熊が演じるのは“ワル”なだけでなく、その一挙手一投足が人情悲喜劇を巻き起こす。

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 毎熊を囲む者たちにも、魅力的な演者陣が顔を揃えた。ヒロインである妹・お藤役を務める芋生悠はメンバー最年少であり、これからが楽しみな駆け出しの女優であるが、毎熊とともに座組を率いていく気概を大いに感じさせる。彼女の演じるお藤もまた、兄に負けぬ相当なタマであり、まさにヴァンプ的な艶のある声と流し目には、思わず何度も息を呑んだほどだ。本公演中に大きく化けそうな予感すらある頼もしい存在である。

 さらに、本作と同じく落語をもとに豊原が演出した『名人長二』(2017)にも出演の森岡龍や、自らがプロデュースした主演映画『今夜新宿で、彼女は、』(2017)の広山詞葉が第二のヒロインとして彩りを添え、足立理、新名基浩、塚原大助、福島マリコ、古山憲太郎、そして豊原も出演し脇を固める。古山は、本公演の閉幕直後に自身の所属する劇団「モダンスイマーズ」結成20周年記念公演をも控えており、そのバイタリティには平伏せざるを得ないといったところ。こちらも必見の作品だ。

 通し稽古とあって、舞台セットはまだ未完成。本番さながらの照明の変化もないため、作品の完全な感触を確かめることは不可能であった。しかしながら、作品の本質である戯曲を咀嚼し(それは恐らく、千秋楽まで続く)、体現する役者の気迫を前に思わず汗を流した。それほどまでに、この座組にあるグルーブ感には力強いものがある。

 ところで、毎熊の出演最新映画である『轢き逃げ 最高の最悪な日』も現在公開中。こちらでは若手刑事に扮しており、ときおりコワモテで凄んでみせたかと思えば、愛嬌をものぞかせ、じめついた作品トーンに、一種の涼やかさを与えている。脇に回った立ち位置ではあるのだが、やはり印象に残る。もちろん演じるキャラクターが独特なものだというのもあるが、その理由の一つには、彼の特異な風貌にもあるのではないだろうか。筆者はこれまでにもたびたび触れてきたのだが、毎熊には、かつての東映や日活のやんちゃな名優たちを思わせる佇まいがあり、いつも魅せられるのだ。

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