東出昌大、出演作の共通点は“苦悩する若者”? 三島由紀夫原作舞台『豊饒の海』起用の必然性
「できる奴は何でもできるし、できない奴は何もできないってだけの話だろ」と、冷ややかにつぶやいて、東出昌大はバスケットゴールにシュートをきめる。彼の俳優デビュー作である『桐島、部活やめるってよ』(2012)でのことだ。彼はこの作品への出演を機にモデルから俳優へと完全なる転身を果たし、以来、さながら真っ直ぐに伸びたランウェイでも歩くかのように、人々の注目を浴びながら進んできた。
あれから早6年にして、まだ6年。やはり彼は、“何でもできる奴”だったのだろうか。公開中の映画『ビブリア古書堂の事件手帖』、そして上演中の舞台『豊饒の海』で、いずれも苦悩する若者を演じているというのが興味深い。
これまでにも東出は、多くの苦悩する若者を演じている。そもそも前出のデビュー作こそが、苦悩を抱く男子高校生役であったのだ。思い返してみるとキャストのほとんどがまだ10代。モデル業を廃業し、20代半ばで役者の世界に踏み込んだ彼自身、運や勢いだけでの行動ではなかったはずである。当然そこには、思慮をめぐらせた上での苦悩の選択と決断があったのではないだろうか。『クローズEXPLODE』(2014)で主演に抜擢されてからもなお続くその路線は、現在にまで伸びている。“東出フィーバー状態”であった2018年下半期、『OVER DRIVE』や『菊とギロチン』『寝ても覚めても』と、止まらぬ勢いで新たな顔を見せ続けたが、ここで演じた人物たちもまた苦悩を抱える存在だったのだ。
いわゆる“キラキラ映画”と呼ばれる作品に挑んだ『アオハライド』(2014)や、熱狂的なファンを持つ『GONIN』(1995)の続編主役という重責を担った『GONIN サーガ』(2015)、コミカルなキャラクターもいけることを証明した『ヒーローマニア-生活-』(2016)、実在する将棋棋士・羽生善治という人物像に、ディテールを徹底するアプローチで迫ったみせた『聖の青春』(2016)、そして、人妻に恋心を抱いてしまうという、またも苦悩の若者を演じている『ビブリア古書堂の事件手帖』。東出のキャリアを振り返ってみると、彼は同系統の作品やキャラクターに連投するということをしていない。かと言って、当初から器用な俳優という印象ではなかった。彼は“何でもできる奴”なのではなく、特定のジャンルに安住を求めず、絶えず“何でもやってやろう”という歩みを止めなかったのだ。そこにはやはり、私たちの知らぬ苦悩というものもあったはずである。