「大人計画」について意外と知らない豆知識 なぜ“全員集合”はレアなのか?
3.いわゆる小劇場から始まった劇団として、現在の大人計画はありえない。
どの点が。まず、舞台はもちろん映画やテレビで大活躍する才能を、こんなにたくさん世に出した、という点において。そして、その才能たちが「売れても出ていかない」という点において、だ。
他の小劇場出身の俳優や演出家と比較すればわかりやすいと思う。売れてメジャーになると、劇団をやめるか、やめなくてもマネージメントはもっと大手に移るか、移らなくても業務提携でどこかの大手事務所が間に入る、とかになるものだ。
そういう人がいない。宮藤官九郎も阿部サダヲも平岩紙も近藤公園も、みんな大人計画所属のまま。星野源のアミューズは? という声もありそうだが、あれはもともと「俳優としては大人計画、ミュージシャンとしてはカクバリズム」だったのが、後者がアミューズに変わった、ということです。
このあたりのことについては、インタビューで、松尾スズキに訊いたことが何度もあるのだが、松尾さんいつも「俺が発掘したって言えるのは荒川良々だけ、他は俺が見つけたんじゃなくて、彼らに大人計画を見つける才能があっただけ」みたいなことしか言いません。
あと、「売れても出ていかないのは、会社としてしっかりしてるからじゃない?」とのこと。確かに他の劇団って、そこまでマネージメントをちゃんとやっているところ、あまりないかもしれない、言われてみると。
というわけで。こんな方々が全員集まるというのが、いかにレアなことであるのか、おわかりいただけたのではないかと思う。大人計画が2018年で旗揚げ30周年を迎えた、そのさまざまなイベント等の締めくくりとして企画されたのだろうが、そうでもないとこんな番組、成立不可能だったと思う。
全6章になっていて、大人計画30年間のレアな映像を交えながら、各メンバーが当時を回想する、という構成だそうだ。NHKが放送したので映像が残っている2006年の『大人計画フェスティバル』や、全メンバーによる事前アンケートをもとにした朗読コーナーなどもオンエアされるという。
それから。以上のような「全員集合することのレアさ」や、「歴史的資料としての価値」以外にも、もうひとつ、観るのが楽しみな点がある。
松尾さん、この人数、どうやって回したんですか?
ということだ。あたりまえだが、「おもしろい役者」は「おもしろい芸人さん」ではない。中にはその壁を越えようとする役者もいるが、大人計画にはそういうタイプはいない。こういうバラエティっぽい番組で、フリートークでしゃべったり、場の空気を作ったりできるのは、松尾スズキ、宮藤官九郎、あと阿部サダヲくらいだと思う。それ以外の人たちは、純粋に「おもしろい役者」だ。台本や演出ありきで、それを完璧に演じて笑いを生み出したり、そこにアドリブを足してさらに大きな笑いにすることはできるが、ひな壇で「はい、なんか言って」で笑いをさらう、なんてことはできない。というか、しようとも思っていない、たぶん。なぜ。役者だから。芸人さんじゃないんだから。
グループ魂における港カヲルの口上、あれは一言一句宮藤官九郎が書いていることは、みなさんご存知ですよね。そういうことです。あ、例外として、星野源は本来はそのあたりの能力もあるが、この顔ぶれの中では前に出にくいと思うし。
書いていて怖くなってきた。でも、楽しみです、とても。「意外とバシッとうまくいった」という結果でも、「やはりグダッとした感じになった」という結果でも、結局おもしろいことになるのが大人計画だ、とも思うので。
■兵庫慎司
1968年生まれ。音楽などのライター。「リアルサウンド」「CINRA NET.」「DI:GA online」「ROCKIN’ON JAPAN」「週刊SPA!」「CREA」「KAMINOGE」などに寄稿中。フラワーカンパニーズとの共著『消えぞこない メンバーチェンジなし! 活動休止なし! ヒット曲なし! のバンドが結成26年で日本武道館ワンマンにたどりつく話』(リットーミュージック)が発売中。