『ワイルドツアー』三宅唱が語る、YCAMでの挑戦「やれることを全部やりきった大好きな一作」
「演出の良し悪し」が問われる時代
ーー『ワイルドツアー』の中では、少年・少女たちがiPhoneを手に撮影している様子を捉えたものや、実際に彼らが撮影していたと思われる映像が随所に使用されています。映像を撮る時のシャッター音も非常に印象に残りました。まさに、「テクノロジーと映画」という文脈に繋がると思ったのですが、意識的に取り入れていたのでしょうか。
三宅:iPhoneでできちゃうことはやっちゃおうというだけで、道具の一つですね。映画にiPhoneを使うだけではもはや新鮮味がない時代だし。新たなテクノロジーの時代というより、むしろ「演出の時代」だと個人的には捉えています。誰でも映画らしきものを作れるとなれば、演出の良し悪しこそが問われる。「誰でもいつでもなんでも撮れる!」というのと引き換えに、むしろ映像自体は溢れて価値は暴落してるんで、むしろ「演出ってなんだ」ということを考えやすくなった時代だと捉えたい。かつては機材が高級だったから普通の人は近づけず、だから演出について考える機会自体が少なかったかもしれない。でも今はポケットから取り出せばすぐに、演出したりされたりできちゃう訳です。だから今回の撮影現場ではむしろ、出演した中高生たちと一緒に、オーソドックスな演出をゼロから積み上げていった感覚があります。彼らと一緒に『許されざる者』(クリント・イーストウッド)の芝居とショットの分析をやったりして。すぐ彼らは映画のコツを発見してましたね。
ーー役者ではなく、演技経験もない中高生たちとはどうコミュニケーションを取られたのですか。
三宅:僕よりも彼らの方が頭の回転が早いし、体も動くから、経験なんてすぐ追いついてきますね。映画作りに対する先入観もないから、自由な意見が出てくるし、躊躇なくトライ&エラーを繰り返すことができる。僕は教えるなんて立場じゃなくて、むしろ、こっちも必死でやらないと置いていかれます。あと、面白くないことに対するジャッジが、彼らはめちゃめちゃ早いんです。「なるほどっすねえ」って誤魔化してこない(笑)。
ーー物語を整理すると、ワークショップに参加した中学3年生の男の子・タケとシュンが、進行役を務める大学生のうめちゃんに恋してしまい……という恋愛要素も入ってきます。冒頭のドキュメンタリー風のシーンから、“本気”の青春恋愛映画のようなシーンまで、その振り幅がすごかったです。
三宅:彼らの日々の変化をがっつりと記録したいと僕自身は想定しつつ、同時に、彼ら自身は「僕を記録して!」なんてことは全く思わないよな、とも悩んでいました。自分を振り返っても、そりゃそうですよね。演技なんて恥ずかしくて罰ゲームでもいやだったから、正直なところ、彼らと演出について考えることを最初は躊躇していました。ただ彼らは当時の自分よりもずっと大人で、「演出があるとカメラの前にたちやすいことがわかった」と自分たちの発見を教えてくれまして。それと、早く大人になりたい、早く高校生になってあんなことがしたい、と彼らがよく言っていたので、「なるほど、変身したいんだな」と。映画作りに混じってくれたのも、新しいことをやってみたい、というエネルギーだったので、じゃあ“恋愛”しようぜ、と(笑)。恋愛をどう映画で表現すると面白いのか、芝居のものすごく細かいニュアンスまで、彼らの方が繊細に考えてくれたし、ものすごく大胆に演じてくれたなと思います。
ーーなるほど。作品におけるクライマックスとも言えるシーンは観ていてドキドキしました。
三宅:いやあ、いいですよね。あの場面は特に、演じている彼らを心底リスペクトします。「あ、ここまでの瞬間ははじめて撮ったかも」と、撮影最中に思いました。
個人的な転換点となる一作
ーー本作の音楽についても教えてください。Hi’Specさんとは、『きみの鳥はうたえる』に続いてとなりますが、本作でも非常に印象的な音作りをされていると感じました。
三宅:今回、彼はいつもと違う方法でトライしてくれました。具体的にはあえて言わないですが「彼らみたいに音楽を作る」と。最高にかっこいい男だな、と思いました。映っている彼らへのリスペクトが溢れているアイデアで。できあがった音楽も、まさにワイルドツアーはこれだ、というものになったと思います。
ーー音楽がなかった場合、よりドキュメンタリー性の強い作品になってしまっていたようにも思いました。
三宅:そうですね。ノスタルジックなものにはしたくなかったし、子どもっぽいものにもしたくない。でも、冒険映画の雰囲気は出したい。彼とは3作目なので、そのトーンをどう出していくかのトライ&エラーを繰り返せました。
ーータイトル『ワイルドツアー』はどういった意図が込められているのでしょうか。
三宅:「生々しい」「リアル」「ナチュラル」などが演技の褒め言葉として使われますけど、個人的に、どうも最近それだと物足りないんだよな、なんか新しい言葉ないかな、と思っていたんです。それで彼らと仕事をしている間に、「あ、ワイルド=野生がしっくりくるぞ」と。あとは冒険映画なので、アドベンチャーとかそういう言葉が欲しいと思い、『ワイルドツアー』となりました。タイトルをつけた後に、ラストカットの意味というか、カメラポジションの意図がより明確になったな、と思いました。
ーー昨年公開の『きみの鳥はうたえる』は柄本佑さんのキネマ旬報主演男優賞をはじめ、数々の映画賞に輝きました。そんな三宅監督が次に撮った作品が本作というのも観客を驚かせそうです。
三宅:67分なのでぜひ気軽に映画館に観に来て欲しいですね。サクッと冒険でも行くか、みたいな気分で。ただ、もし気軽に作った小品として見過ごされるとしたらそれは悔しすぎるので、ちゃんと届けたいと思います。彼らと真剣に、今やれることを全部やりきった、個人的に手応えのある大好きな一作となりましたし、今後の自分にとっても転換点になる予感がしています。
(取材・文=石井達也)
■公開情報
『ワイルドツアー』
3月30日(土)〜4月12日(金)、渋谷ユーロスペース
5月4日(土)〜大阪シネ・ヌーヴォ、京都出町座
初夏、神戸元町映画館
出演:伊藤帆乃花、安光隆太郎、栗林大輔ほか
監督・脚本・撮影・編集:三宅唱
プロデューサー:杉原永純(YCAM)
リサーチ・照明:高原文江(YCAM)
撮影技術:大脇理智(YCAM)
撮影・編集補助:今野恵菜(YCAM)
衣裳:青柳桃子(YCAM)
美術・デバイスデザイン:岩田拓朗(YCAM)
録音:戸根広太郎、安藤充人(YCAM)
整音:弥栄裕樹
録音補助:中上淳二(YCAM)
音楽:Hi’Spec
宣伝・配給:岩井秀世
製作:山口情報芸術センター[YCAM]
公式サイト:https://special.ycam.jp/wildtour/