『ワイルドツアー』三宅唱が語る、YCAMでの挑戦「やれることを全部やりきった大好きな一作」

三宅唱×YCAM『ワイルドツアー』

 山口県山口市にある山口情報芸術センター(Yamaguchi Center for Arts and Media)、通称“YCAM(ワイカム)”。2003年の開館以来、メディア・テクノロジーを用いた新しい表現の探求を軸として、市民や様々な分野の専門家と“ともにつくり、ともに学ぶ”ことを理念として、さまざまな活動を展開している。一昨年は当サイトでも樋口泰人が音響監修する「カナザワ映画祭2017at YCAM」のレポートを掲載した。

 YCAMの試みのひとつとして行われているプロジェクトの中でもひときわ興味深いのが滞在型映画制作「YCAM Film Factory」。本プロジェクトでは、映画監督を山口に招き、新しい時代の映画の在り方を模索・実践している。これまで、柴田剛、空族(富田克也、相澤虎之助)+スタジオ石、染谷将太が映画を製作。第4弾として『きみの鳥はうたえる』の三宅唱が招聘され、3月30日より公開される映画『ワイルドツアー』を監督した。

 リアルサウンド映画部では、三宅唱監督にインタビューを行い、YCAMの魅力から、『ワイルドツアー』制作の裏側まで、じっくりと話を聞いた。

21世紀生まれのティーンエイジャーたちと映画を作る

ーー昨年、当サイトでも現地取材をし、YCAMの魅力を伝える記事を出したのですが、近年本当に幅広い活動をしていると感じます。三宅さんはYCAMとはどういった結びつきだったのでしょうか。

三宅唱(以下、三宅):最初の縁はYCAMが10周年を迎えた際に行われた「FILM by MUSIC 架空の映画音楽の為の映像コンペティション」に呼んでいただいた時からです。音楽が先にあり、そこに映像を付けていくという試みで、真利子哲也監督、瀬田なつき監督と参加していました。正直、最初は「メディア・テクノロジーのアート施設」と言われても、まったく正体不明の場所で、完全にアウェーだと思っていました(笑)。英語とプログラミング言語ができて現場力もあります、みたいな映画業界ではあまり出会わないスタッフたちがいて、ビビってましたね。『ワイルドツアー』のプロデューサーの杉原永純さんとは、彼がオーディトリウム渋谷(2011年~2014年閉館)の編成を担当していた頃から繋がりがありました。彼がYCAMでキュレーターになり、数年前に今回のオファーをもらって以降は年に数回、様々な展示のタイミングで足を運ばさせてもらい、「ここならアート作品だけでなく、映画作りにおいても面白いことができそうだ」と徐々に慣れていきました。

ーー『ワイルドツアー』制作に関して、杉原さんからは「映画でなくても構わない」というオファーだったそうで。

三宅:「場合によっては論文でも、小説でもいい」と最初に言われ、プレッシャー強めだ! と。「ただの映画ならいらないよ」ってことですから。と同時に、市の公共施設からのオファーなので「実験して満足ってのは一番最悪」と個人的には考えていました。結果的に中高生をキャスティングしたのもそうですが、彼ら本人及びそのご家族親戚一同に「面白い!」と思ってもらわないと「負け」。要するに、普通の映画会社には作ることができず、実験的であり、かつ誰が見ても面白い映画ならば一緒に作ろう、というオファーだったわけです。正直そんなものパッと浮かぶわけがないので、もうあえて何も考えずに滞在をはじめました。普通に暮らしながら、ご飯を食べて、散歩して、いろんなジャンルのアートに携わるスタッフらと話す中で、感じたものを映画の形に昇華できれば、と。まあ、行く前は不安でしたね(笑)。

ーー作品にするあたり、最初の出発点は何だったのでしょうか。

三宅:YCAMに来るたびに面白いと感じていたのは、最先端のアートに触れることができる施設であると同時に、館内では地元の小学生や中高生がカードゲームをしたり、勉強をしたり、廊下の陰でデートしてたりする、という風景です。パソコンやiPhoneが生まれた時から「自然環境」にある世代ですよね。21世紀生まれのティーンエイジャーがどういう毎日を過ごして、何を考えてるのか知りたいなと思って、彼らと一緒に仕事しようと決めました。

ーー作品の中でも観ることができますが、当たり前のように館内で中高生たちがはしゃいでいるのが不思議な感覚でした(笑)。映画は、ワークショップ「山口のDNA図鑑」の様子から始まりますが、これも実際に行われているワークショップだそうですね。

三宅:はい、実際に僕も滞在中に参加しました。実験精神はある方だと思うんですが(笑)、「ほんとの実験」なんてもう20年くらいやってないから、新鮮だったし面白かったですね。バイオテクノロジーの応用可能性を探るYCAMの研究チームが、地元の方たちと一緒に、DNA解析技術を使ってオリジナルの植物図鑑を作る、というものです。参加していた小学生が楽しそうに実験したり、DNAについて質問していて、「うわ、未来にきちゃった」とニヤニヤが止まりませんでした。

ーーYCAMは映画などのアート以外の部分でも、さまざまな試みを行っているんですね。

三宅:いろんなジャンルの試みに触れているうちに、ジャンルとジャンルの境界、例えばバイオアートと映画ってどう関係しているのか、そのあたりが謎だったんですが、映画にも出演しているYCAMバイオ・リサーチの津田和俊さんからバイオテクノロジーの歴史について伺った時に「そういうことか!」と。例えばDNA解析をするにも、かつては何千万もかかっていたところ、テクノロジーの発達によっていまや数百円でもできるようになった。それにともない、さまざまな可能性が爆発的に拡がっている。「そういう過渡期に僕らは生きていて、せっかくならその変化の近くで生きた方が面白いと思う」と津田さんが言っていて。映画の技術史もインターネットの個人化も全部同じ流れですよね。21世紀ってそういうことね、と。あと、ほぼ全ての撮影に参加したYCAMの大脇理智さんが「色々な労働がテクノロジーに代替されれば、人間はその下で働くか、アートをやるかだ」というようなことを話してくれて、率直に感銘を受けたし、iPhoneでいろいろ作るのはやっぱりアリだと励みになりました。大脇さんには、一日だけですがコンテンポラリーダンスの手ほどきをしてもらいまして、めちゃくちゃ演出の勉強にもなって、楽しかったですね。

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