長谷川博己、『まんぷく』の次は大河ドラマ『麒麟がくる』も 芝居に安定感生む“演出家”としての顔
昨年10月にスタートした朝ドラ『まんぷく』(NHK総合)も、いよいよ今月末で最終回を迎える。福子(安藤サクラ)と萬平(長谷川博己)の恋の行方、結婚、子育て、まんぷくラーメンを製造・販売するに至るまでの奮闘記、と毎日のように物語を見守ってきた視聴者にとっては、もう彼らに会えなくなるのかという寂しさもありつつ、どのような最終回となるのか楽しみなところだ。
ヒロイン・福子の夫、萬平役としてこのドラマを牽引し続けてきた長谷川博己。『まんぷく』が終了した後には、来年1月から始まる大河ドラマ『麒麟がくる』(NHK総合)の主演が控えており、その活躍の充実ぶりからも、人気と実力を兼ね備えた俳優であることは今更説明不要だろう。彼をここまでの人気俳優として押し上げた魅力は、どんなところにあるのだろうか。
彼の俳優としてのキャリアは、2001年に文学座附属演劇研究所に入所したことから始まる。研究所を卒業後、研修科、準座員を経て文学座の座員となった。2006年には文学座を辞めることになるが、文学座時代から劇団内外問わず、ロバート・アラン・アッカーマン、鵜山仁、川村毅、永井愛、鈴木勝秀など、様々な演出家の舞台に出演しており、中でも彼にとって一番大きかったのは、2005年に蜷川幸雄演出『KITCHEN』に出演したことだろう。蜷川との出会いとなったこの舞台以降、小栗旬主演で勝地涼も出演した『カリギュラ』(2007)、野村萬斎と尾上菊之助の共演が話題となった『わが魂は輝く水なり』(2008)、高橋一生や吉田鋼太郎も出演した『から騒ぎ』(2008)、唐沢寿明主演『冬物語』(2009)、三部構成で合計9時間という超大作『コースト・オブ・ユートピア』(2009)、上川隆也主演『ヘンリー六世』(2010)、村上春樹の小説の舞台化として話題となった『海辺のカフカ』(2012)、と年に1回程度、多い時は年2回とハイペースで蜷川作品への出演が続いていた。今の長谷川博己を形作ったのは、この期間の経験が大きいことは間違いない。
徐々にテレビ出演も増えていき、2010年に『セカンドバージン』(NHK総合)への出演で注目度が高まり、翌年には民放ドラマ初主演となる『鈴木先生』(テレビ東京系)、優柔不断なダメ父親役が話題となった『家政婦のミタ』(日本テレビ系)などテレビ出演が続き、その存在は広く知られるところとなった。その後の出演作では『MOZU』(2014、TBS系/WOWOW)での狂気を帯びた悪役、『夏目漱石の妻』(2016、NHK総合)でのエキセントリックな漱石役などが強く印象に残っている。映画では、なんといっても『シン・ゴジラ』(2016)での主演・矢口蘭堂役を抜きには語れない。生来のスラリとした高身長と精悍な顔立ちを生かしたたたずまい、そして冷静と熱血のバランスが取れた絶妙な芝居で、東宝ゴジラシリーズ第29作目という重要な作品の主演を堂々と務めた。
彼の魅力の一つは、どんな役を演じていても、それが悪役や奇人であっても、その役にリアリティを持たせつつ、見る側が無意識のうちに一定の安心感を抱けるところである。それはなぜか。彼は、いわゆる「役に没入して成りきる」タイプの俳優ではないからだ。彼の場合、フィクションの世界を生きる「俳優・長谷川博己」を現実世界から見つめるもう一つの人格、「演出家・長谷川博己」が存在していることを強く感じさせるのだ。