『グリーンブック』はアカデミー賞作品賞にふさわしかったのか? 批判される理由などから考察
アカデミー賞作品賞にふさわしかったのか
今回のアカデミー賞で助演女優賞を獲得した、バリー・ジェンキンス監督作『ビール・ストリートの恋人たち』は、作品賞のノミネートには至らなかった。その劇中では、黒人の登場人物が「白人は悪魔だ」とはっきり言う場面がある。この作品では、マジョリティである白人の登場人物ががいい格好をするようなシーンはまるで存在しない。
『グリーンブック』は黒人と白人のキャラクターを魅力的に描く、融和をうながす公平な映画で、『ビール・ストリートの恋人たち』は、一方を悪魔的に描くことで人種間の対立を煽る映画に見えるかもしれない。しかし社会の実態を勘案したうえで、被差別側からの視点で見ると、前者は現実の問題に遠いものと映るのは理解できるし、それがアメリカ文化を代表するアカデミー賞を受賞するということに嘆息するという気持ちも想像できる。
とはいえ、トランプ政権になって以降、差別的な政策やヘイトクライムの増加を見せる現在のアメリカにおいて、『ビール・ストリートの恋人たち』が広く理解を得られるかというと、難しい部分もあるかもしれない。その点で、分かりやすく「差別はいけない」ということを語っている『グリーンブック』は、それがある程度の保守性を持っているがゆえに、そのメッセージは差別者にすら届き得る可能性が大きいともいえる。そう、かつての黒人のためのガイドブックとしての「グリーンブック」が、それ自体の問題を背負いながらも社会を暫定的に良くする役割を担っていたように。文化の力において、アメリカを立て直していくという意味においては、『グリーンブック』こそアカデミー賞にふさわしい作品だということもいえるのではないだろうか。
■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter/映画批評サイト
■公開情報
『グリーンブック』
TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
監督:ピーター・ファレリー
出演:ヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリ、リンダ・カーデリーニ
提供:ギャガ、カルチュア・パブリッシャーズ
配給:ギャガ
原題:Green Book/2018年/アメリカ/130分/字幕翻訳:戸田奈津子
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公式サイト:gaga.ne.jp/greenbook