『3年A組』の成功は『仮面ライダービルド』の経験があってこそ? 武藤将吾が表現する“正義”とは

『3年A組』脚本家が表現する“正義”への信念

 仮面ライダーなどは誰もが認める正義のヒーローである。一方、柊は“正統派”のヒーローであるかと言われればそうではないのかもしれない。少なくとも、放送開始当初の柊はひどく恐ろしい存在に思えた。生徒は監禁するし、爆弾は設置するし、そのやり方は私たちが知っているヒーローの多くがとるアプローチとは異なる。本人も「俺はヒーローになれませんでした」と言っているが、彼の姿、つまりヒーローという存在に特別な思いを抱きつつも、そうすることができない姿からは、大人の私たちに訴えかけるものがある。

 本作でしばしば象徴的に登場するのが、ガルムフェニックスである。ガルムフェニックスとは、『3年A組』の中で随所に描かれてきた架空の特撮ヒーローであり、ファイター田中(前川泰之)という人物がそのスーツアクターを務める。一時、柊がそのスーツアクターを継承するという話も出たのだが、結局病が理由で、彼が引き受けることはなかった。

 第8話で柊が田中に対して「子どもたちの夢を壊したくありませんから」「田中さんはいつまでも“ヒーロー”でいてください」と言う一幕があり、その台詞からは柊の抱える葛藤、あるいは諦めが垣間見えた。ガルムフェニックスのような、まさしく子どもの夢のようなヒーローはいつの時代も憧れであり、カッコいい。しかし、そんな王道のヒーローとは対照的な、柊のような人物の姿も描かれる意義はあるはずだ。柊一颯の中にも、ヒーローが共通して持つ“正義”への信念が垣間見える。ヒーローの光と影のようなガルムフェニックスと柊であるが、両者はかけ離れているようで、全く違う存在であるとは言い切れない。日曜の朝に登場するようなヒーローの活躍劇としてではなく、柊のような存在を通して描かれる“正義”のあり方も私たちにまた別の視座をもたらしてくれる。

 正義について語ろうとする人間はしばしば、少なくとも自分は“正義”の側にいるという前提で話し始めるものである。ただ、柊のように自分はヒーローにはなれなかったと悟っている人間が伝えようとする渾身のメッセージは、どこか胸に突き刺さる。『3年A組』と『ビルド』とでは世界観が大きく異なるものの、脚本家の武藤氏が表現しようと試みているものはどこかで通じ合っているはずだ。

(文=國重駿平)

■放送情報
『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』
日本テレビ系にて、毎週日曜22:30〜放送
出演:菅田将暉、永野芽郁、萩原利久、秋田汐梨、若林薫、佐久本宝、富田望生、片寄涼太(GENERATIONS from EXILE TRIBE)、川栄李奈、上白石萌歌、新條由芽、鈴木仁、古川毅(SUPER★DRAGON)、望月歩、搗宮姫奈、堀田真由、日比美思、森山瑛、三船海斗、今井悠貴、若林時英、今田美桜、飛田光里、大原優乃、神尾楓珠、横田真悠、森七菜、西本銀二郎、福原遥、高尾悠希、箭内夢菜
脚本:武藤将吾
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:福井雄太、松本明子(AX-ON)
演出:小室直子、鈴木勇馬、水野格
制作協力:AX-ON
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/3A10/

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