ゆっきゅんの『チワワちゃん』評:“たくさんのひとり”と見つめたい、僕らの映画

ゆっきゅんの『チワワちゃん』評

 『チワワちゃん』について最も深く見つめることになったのが、門脇麦さんの演じるミキだった。ミキは趣味でナガイくんの写真のモデルをしてInstagramに載せていた。その影響もあって Instagramを始めたチワワちゃんは、有名なモデルにシェアされたこともあって、ミキよりよりどんどんフォロワーを増やし、モデルとして活動するようになっていく。元々少し好きだった男の子の新しい彼女としてミキの前に現れたチワワちゃんがどんどん輝いて有名になっていって、どこか取り残されるようなミキの姿。ミキはチワワについて雑誌の取材を受ける中で、あの頃の仲間たちにチワワの話を聞いて回る。

 門脇麦さんが素晴らしくなかったことは一度もないですが、今回も素晴らしかった。いつも僕たちの視点で世界と対峙する人。諦観を宿した眼差しでこちらを見ている。世界のこと、他人のこと、冷徹に見透かしているようで、そこに向けられている自分の欲望や葛藤にもどうしようもなく気づきながらも、自分のことだけは見透かさないでほしいという気持ちまでも観客には見えてしまうような、そんな瞳で、過去から今を照らそうと足掻いていた。大音量の音楽を人混みで共有する空間の中で、ミキだけに、ミキだけの静寂が流れてしまう瞬間があったように思った。みんな過去も未来も、全てを忘れたくて、どうでもいいって思いたくて、集団に自分を溶かすように踊っていたのに、それでも逃れられない空洞があることを、ミキは知っていた。なかったことにならない人、それがミキだったように思った。美しかったな。

 エンドロールで流れるHave a Nice Day!の「僕らの時代」を聴くと、映画の色がいくらでも思い出せる。でも僕らの時代って何だろう。何だったんだろう。てかいつのこと? 僕らとか時代とかいうのは、色のついたもやがかかったぼんやりとしたもので、はっきりとしない、そんなもんなんだろう。はあ、今日も色んなことを考えて、全て忘れた。生きているこんなにいびつな今さえも、表現すればきれいな輪郭を持ってしまうのだから、思い出になんてなってしまったら、本当のことなんて夢の中だ。輝いた瞬間を忘れてしまうのやだな、でも振り返ったら綺麗なことだけになるのもやだ、今を今だけでは感じ切ることができないのも悲しい。2018年の東京を生きる自分の今が確実に過去になることを感じながら、『チワワちゃん』が放つ、妖しくてうるさくて派手で寂しい輝きを忘れたくないと思った。

「電影と少年CQ」 (c)Ayano Sudo

■ゆっきゅん
2014年より活動を開始。ミスiD2017ファイナリスト。2 016年からはアイドルユニット「電影と少年CQ」 のメンバーとなり、ライブを中心にモデルや執筆でも活躍中。 現在公開中の映画『21世紀の女の子』に出演。 TwitterInstagram

■公開情報
『チワワちゃん』
全国公開中
出演:門脇麦、成田凌、寛一郎、玉城ティナ、吉田志織、村上虹郎、仲万美、古川琴音、篠原悠伸、上遠野太洸、松本妃代、松本穂香、成河、栗山千明(友情出演)、浅野忠信
監督・脚本:二宮健
原作:『チワワちゃん』岡崎京子著(KADOKAWA刊)
主題歌:Have a Nice Day!「僕らの時代」 (c)ASOBiZM 
挿入歌:Pale Waves「Television Romance」(c)Kobalt Music Publising Ltd (c)2017Dirty Hit
企画:東映ビデオ
企画協力:KADOKAWA
配給:KADOKAWA
制作プロダクション:ギークサイト
製作:「チワワちゃん」製作委員会
2019年/日本/カラー/シネマスコープ/ DCP 5.1ch/104分/R-15
(c)2019『チワワちゃん』製作委員会
公式サイト:chiwawa-movie.jp

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる