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『映画刀剣乱舞』を傑作たらしめた小林靖子による脚本 “内と外”に向けた構造を読み解く

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 かつて宮崎駿や押井守、庵野秀明という才能たちと出会った時に似た興奮で、ある映画とある優れた脚本家について語りたい気持ちが続いている。公開後最初の月曜、通い慣れた川崎の映画館で、僕は『映画刀剣乱舞』を観た。初めに言ってしまうと、僕は原作のゲームをプレイしたことがない。だから僕が今から書くことは、もしかしたら熱心な原作ファンにとっては当然すぎたり、あるいは少しズレていることなのかもしれない。でも僕はこの映画を見ながら、昔観た懐かしい映画を幾つも思い出していた。雑誌『H』(ロッキング・オン刊)のインタビューで、刀剣男士・鶯丸を演じた廣瀬智紀が「この映画は時代を変える可能性のある作品だ」と語るのを後日読んだけれど、僕が映画館で思い出したのも、そうしたサブカルチャーの歴史を変えた作品たちだ。『刀剣乱舞』は間違いなくそれらの作品群に並ぶ、日本の女子ゲーム文化にとってのエポックメイキングな作品だと思う。

 まず書いておかなくてはならないのは、この映画が原作ファンの期待に応えた良質なメディアミックスであり、優秀なジャンルムービーだと言うことだ。原作のゲームは女性ファンをメイン層にしていて、この映画の刀剣男士たちもそのビジュアルデザインを踏襲している。マーベルやDCがアメコミ文化のルーツを重んじ、宝塚歌劇団のスターたちが自分たちの文化に誇りを持って演じるように、この映画は自分たちのジャンル文化、女子ゲーム文化の表象を高く掲げ、引き受けている。「一般向け」に修正され原作の美点を消されたり、予算の都合や業界の事情に歪められることなく、ファンの愛する文化の忠実な映画化に成功したジャンルムービーの傑作、それがこの映画の確かな一面である。 

 でももうひとつの面としては、この映画は生々しい現実、歴史を生きた実在の人物を描いた人間ドラマでもある。それを描くために、おそらくこの映画は公開規模に比べ破格の制作費を投じている。耶雲哉治監督のツイートによれば公開規模は111館、他の大作群に比べ小規模での公開となったが、本能寺の変を描くために甲冑を着た多くの戦国武者が用意されている。本能寺や安土城のセットを組み、そこにCGではない本物の火矢を撃ち込んで組んだセットを燃やし、その炎で銀幕に戦国時代の深い闇と光を作り出す。本物の馬が登場し、ワイヤーアクションを使う。さらにこの上に時間遡行軍と呼ばれる敵の特撮スーツとCG効果が必要になる。これらすべてを実現する費用が高いことは想像に難くない。その上に、驚くべきことに、織田信長役に山本耕史、豊臣秀吉役に八嶋智人を起用している。

 山本耕史は『真田丸』をはじめ、NHK大河ドラマに4度出演している俳優である。八嶋智人も『新撰組』など、多くのドラマに引く手あまたの名バイプレイヤーだ。刀剣男士と時間遡行軍のSFアクション的戦いを描く『刀剣乱舞』という映画の中で、ある意味では背景的存在であるはずの織田信長と豊臣秀吉に対して、この映画はおそらく主演俳優以上の予算を投じている。いわば戦国時代劇と特撮アクションという映画2本分の予算を1本に投入しているわけだ。

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