戸田恵梨香とムロツヨシだからこそ紡げた物語 『大恋愛』が伝えた“生まれてきた意味”

戸田&ムロだからこそ紡げた『大恋愛』

 美しいものを見たとき、楽しい時間を過ごしているとき、私たちは心から“このまま時が止まってしまえばいいのに”と願う。『大恋愛』の最終話を見ているときにも何度も思った。だが、無慈悲にも時は流れ続ける。サラサラとこぼれていく砂時計を誰にも止めることはできない。だからこそ、その情景をとどめておきたいと記録する。撮影し、録画し、文章を書き、語り継ぐ。だが、記録は記憶を補う術でしかない。思い出の再生ボタンは、黒酢はちみつドリンクが、アップルパイが、図太くまっすぐな煙突が担うのだ。他の人にとっては、なんでもないものが、自分にとっては特別なものになる。

 私たちが今見ている景色もいつかはなくなってしまう。そして、私たち自身を形成している細胞も、いつかは自然にかえっていく。目の前の人とはいつか必ず別れがきて、どんなに素晴らしい記録も受け継がれなければ消えてしまう。そう思うと、人生はなんて儚くて、あっけないのだろう。いつか必ずやってくる喪失に向かって、私たちは日々構築し続けている。どこがゴールかも、いつ終わるかもわからない模索の毎日。

 それは以前、ムロツヨシがインタビューで話していたように、山登りに例えられるかもしれない。地道に登ってきたはずが、思わぬがけ崩れにあい、傷つくこともある。しんどくて、苦しくて……それでも、私たちはそれぞれの山を登り続ける。

 そのエネルギーは、きっと一瞬の奇跡にほかならない。伝説級の感動を呼んだ結婚式が、尚の記憶が一瞬戻った奇跡の瞬間が、真司の生きる糧となるように。忘れたくない情景が、何度でも心を温め、奮い立たせてくれるのだ。

 『大恋愛』は逃れられない悲しみを描きながらも、どこか一筋の光が差し込むような温かな気持ちに包まれたのは、死してもなお自分の生きた日々が誰かの生きる励みになるという、希望を見せてくれたからかもしれない。それこそが生まれてきた意味があるというものだ。今日もまた、誰かと生きることを大切に。前向きに、優しく、またそれぞれの山を登っていこう。

(文=佐藤結衣)

■放送情報
金曜ドラマ『大恋愛~僕を忘れる君と』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54
脚本:大石静
プロデューサー:宮崎真佐子、佐藤敦司
演出:金子文紀、岡本伸吾、棚澤孝義
出演:戸田恵梨香、ムロツヨシ、富澤たけし(サンドウィッチマン)、杉野遥亮、小篠恵奈、黒川智花、橋爪淳、夏樹陽子、草刈民代、松岡昌宏
製作:ドリマックス・テレビジョン、TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/dairenai_tbs/
公式Twitter:@dairenai_tbs

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