蘇るデスマーチの記憶…… 『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』の“お仕事映画”感

『ボーダーライン』続編の“お仕事映画”感

 そんな経験があるせいか、メキシコとアメリカの麻薬戦争という全く自分の身近に感じられない題材ながら、劇中の2人を何なら「あ~、こういうのって“あるある”だよね~」と思うほど身近に感じた。冷静に考えれば、本作のプロットは主人公たちが上司(アメリカ大統領)から「こうしてね」と言われたので、実際にやってみたら、「やっぱ止めて。後処理は全部そっちでやってね。もちろんこっちは無関係だから、よろしく」と切り捨てられた上に、尻拭いをさせられる物語だ(こういう「話が違うだろ!」という体験は多くの人が経験しているのではないか)。私は確かに2人に自分を重ねていたし、だからこそ物語の終着点に震えたのだ。空を駆けるブラックホークに爽快感を、何かとんでもないことを企てるアレハンドロに胸の高鳴りを覚えた。

 アレハンドロを演じたベニチオ・デル・トロは、インタビューで「アレハンドロを演じる時、俺の心には三船敏郎がいる」と語っていた(『映画秘宝』2018年12月号より)。今度は私たち日本人の番だ。いつだって組織に「アディオス(あばよ)」と言えるように、心には常にアレハンドロとブラックホーク、そして“SICARIO(本作の原題、「暗殺者」の意)”を宿して生きていこう。本作は非情な現実を描きつつ、一方で働く人には共感できる“お疲れさま映画”の傑作である。

■加藤よしき
ライター。1986年生まれ。暴力的な映画が主な守備範囲です。
『別冊映画秘宝 90年代狂い咲きVシネマ地獄』に記事を数本書いています。

■公開情報
『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』
全国公開中
監督:ステファノ・ソッリマ
脚本:テイラー・シェリダン
出演:ベニチオ・デル・トロ、ジョシュ・ブローリン、イザベラ・モナー、ジェフリー・ドノヴァン、マヌエル・ガルシア=ルルフォ、キャサリン・キーナー
配給:KADOKAWA
提供:ハピネット、KADOKAWA
原題:Sicario: Day of the Soldado/2018年/アメリカ映画/122分/字幕翻訳:松浦美奈/PG12
(c)2018 SOLDADO MOVIE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:border-line.jp/

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