東出昌大、出演作の共通点は“苦悩する若者”? 三島由紀夫原作舞台『豊饒の海』起用の必然性
その東出が主演を果たした舞台『豊饒の海』は、彼にこそ相応しい作品だ。本作の原作は、『春の雪』『奔馬』『暁の寺』『天人五衰』の4巻から成る、三島由紀夫が遺した最後の長編小説。東出が演じる松枝清顕の人物像については割愛するが、彼は本作において「美」の象徴である。それをめぐる物語なのだから、この「美」に説得力がなければ成立しない。そして彼もまた、自身のうちに苦悩を抱える若者なのだ。若者の苦悩は三島作品における主題の一つでもあるし、東出の起用には必然性さえ感じられる。
素舞台に近いつくりのステージで、彼らは身体と言葉だけで観客に立ち向かう。宮沢氷魚、上杉柊平といった高身長の俳優が並ぶ中、190センチ近い長身の東出は彼らよりもさらに大きく、少し鼻にかかったような特徴的な声は舞台でもより強みとなった。彼しか持ちえないこの特徴は、松枝清顕という人物がただならぬ存在であることをより印象づけることをも可能にしたのだ。三島作品特有の美しい言葉の一つひとつは、彼のしなやかな身体の動きと伸びやかな声によって、私たちの元へと届くのである。
映像作品とは違い、舞台には逃げ場がない。息を呑んで見つめる観客の瞳を、彼らは生身で受け止めなければならないのだ。観客の態度や反応は如実に彼らに伝わり、それは演技にも反映される。演じ手と観客の間に生じるコミュニケーションである。三島ファンであることを公言する東出だからこそ、並々ならぬプレッシャーを受けていたのではないだろうか。だがカーテンコール(筆者はプレビュー公演初日を観劇した)では、笑顔を見せ、劇中での彼とはまるで違う清々しさで、「ありがとうございました」と言い放つ姿が印象的であった。たしかな手応えを感じた証だろう。いち俳優として、いち男性として脂の乗りはじめた30歳の東出昌大。身体と声を通して言葉を扱う、そんな俳優の道を選んだ彼のターニングポイントとして申し分のない作品となった。
『豊饒の海』舞台写真クレジット:撮影=阿部章仁
■折田侑駿
映画ライター。1990年生まれ。オムニバス長編映画『スクラップスクラッパー』などに役者として出演。最も好きな監督は、増村保造。
■公演情報
2018 PARCO PRODUCE “三島 × MISHIMA”『豊饒の海』
原作:三島由紀夫
翻案・脚本:長田育恵
演出:マックス・ウェブスター
製作:井上肇
企画製作:株式会社パルコ
出演:東出昌大、宮沢氷魚、上杉柊平、大鶴佐助、神野三鈴、初音映莉子、宇井晴雄、王下貴司、斉藤悠、田中美甫、首藤康之、笈田ヨシ
<東京公演>
公演日程: 2018年11月3日(土)〜5日(月)プレビュー公演
2018年11月7日(水)〜12月2日(日)本公演
会場:紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
料金:9,000円/プレビュー料金:6,000円(全席指定税込)
お問合せ:パルコステージ 03−3477−5858(月〜土 11:00〜19:00/日・祝 11:00〜15:00)
公式サイト:http://www.parco-play.com
<大阪公演>
公演日程:2018年12月8日(土)〜9日(日)
会場:森ノ宮ピロティホール