『アリー/ スター誕生』米大絶賛の理由 2018年的刷新とレディー・ガガに重なる物語がポイント?

ポスト#MeToo時代の映画として

 『アリー/ スター誕生』は、バーブラ・ストライサンドが主演を務めた1976年版とあまり変わらない内容とされる。音楽界が舞台で、男性スターが一般女性の才能を見抜き、恋愛関係となる。そして女性がスターダムに駆け上がる一方で男性は凋落するーーつまり、音楽スター同士の悲恋だ。The Economistによると、インターネットが当然のものとなった今日の音楽産業状況はあまり反映されていないようだ。このことから、テックに関心の低いとされる高齢世代も観やすい作品だと予想できる。70年代版とほぼ同じ世界観、クラシック作品のリメイク、音楽要素ーー『アリー/ スター誕生』は「アカデミー高齢会員の好みとされる映画像」に見事合致するのである。さて、こうやって切り取ると保守的な映画に思えるが、本当にそうなのだろうか?

 『スター誕生』は「男性権力者にサポートされるシンデレラストーリー」の面もあり、ポスト#MeToo時代からするとモダンな話ではなさそうだが……実は、ジェンダー面で賞賛されているのは、男性権力者描写、つまりは、監督も務めるブラッドリー・クーパー演じるジャクソンの人物像だ。

「『アリー/ スター誕生』で描かれる男性性は、我々が見慣れた“良い男性”と“悪い男性”のどちらにも属さない。男性主人公には問題性とポジティブな面が混在しており、偶像化も悪魔化もされていない」 - i-D

 クーパーは、歴代フランチャイズとは異なる「複雑で脆弱な部分も持つ男性像」を描いたようだ。それによって、アリーとの交際におけるジャクソンの問題性も明瞭化していると評されている。この側面は時事的でもある。劇中、ロックスターのジャクソンはアルコールとドラッグ中毒に侵され転落していく。2010年代後半のアメリカでは、多くのスターが中毒に侵され亡くなっている。ドラッグ中毒の経歴があったマック・ミラーが26歳にして逝去した際には、元恋人アリアナ・グランデへのバッシングが生じた。The New York Timesは、本作が男性側の諸問題を明確にしたことで、こうした「男性の転落の責任をパートナー女性にきせる風潮」に一石を投じたことを示唆している。

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