『アリー/ スター誕生』米大絶賛の理由 2018年的刷新とレディー・ガガに重なる物語がポイント?
「スターダム悲恋」はガガの人生とも重なる
21世紀版『スター誕生』プロジェクトは、元々ビヨンセが主演として関わっていた。彼女の場合、グループ出身やフェミニストなど、バーブラ版と共通するキャリアを持っていた。では、ガガはどうなのか?
主人公アリーは、歌手となる夢を諦めた女性で、下積み時代のガガとは正反対だ。ゆえに「既存イメージを感じさせない演技」と絶賛された。その一方、彼女の音楽キャリアも大きく寄与したようだ。大半の楽曲をガガが作詞作曲したサウンドトラックでは、彼女の多彩なディスコグラフィーを再現するかのように、カントリーからロック、ポップまで様々なジャンル音楽が披露されている。本作に満点評価を下したThe Guardianは、ガガの変容能力が今までで最もハイレベルだと絶賛した。
正反対と言っても、ガガに“一目惚れ”したクーパーが彼女用に脚本を加えたこともあってか、彼女の人生と重なる面もある。クーパーとガガの出逢いは癌関連のチャリティパーティーだった。そこで「La Vie en Rose」を歌うガガをひとめ見て主演オファーを決断。この曲は劇中でも歌われるため、現実での出逢いがそのまま作品に反映されている。なにより、本筋である「スターダム悲恋」は、ガガが身をもって体験してきたこと。彼女もまた、アリーと同じように、スターダムに登る過程で大切な人を失ってきた。Netflixドキュメンタリー『Five Foot Two』において、このように吐露している。
「いつも仕事で成功するたび恋愛がダメになってる」
「レコードを1,000万枚売り上げたとき、マットを失った。3,000万枚を売った時はルークを失った。映画が決まってテイラーとも破局した。まるで売上高みたいに3度も同じように失恋したの」
また、ELLEのインタビューではこう語った。
「成功は関係性をテストする。家族や友人を。それがスターダムの時代。私は、心の傷にアクセスすることなく作曲や演技をすることはできない」
実は、映画撮影中もガガは大切な人を失った。ハイライトになるであろう「I’ll Never Love Again」歌唱シーンが撮影されたのは、長年の親友ソニア・ダラムが癌で亡くなった直後なのである。撮影当日、ソニアが危篤状態だと知ったガガは、すぐさま友人のもとへ駆けつけた。しかし間に合わず、ソニアはガガが到着する直前に逝去。ガガと親友の夫は、このような会話をしたというーー「何をすればいいのかわからない」「ソニアが君にやってほしいことをやるんだ」。ソニアがガガに求めたのは、歌うことだった。ガガはすぐにセットへ戻った。当時の彼女はとにかく歌いたがっていたそうで、撮影後、クーパーはガガにこう告げたーー「この映画のファイナル・ショットになる」。
本作のラストシーンは、主演女優の親友に贈られたと言っても良いだろう。レディー・ガガが自身の心を隠して創作することができない表現者だからこそ、『アリー/ スター誕生』は多くの人々に訴えるエモーショナルな映画になったのではないだろうか。彼女を信頼し続けたクーパーがこの作品に込めた願いは、「人々にトラウマを乗り越える勇気を与えること」だという。
■辰巳JUNK
ポップカルチャー・ウォッチャー。主にアメリカ周辺のセレブリティ、音楽、映画、ドラマなど。 雑誌『GINZA』、webメディア等で執筆。
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■公開情報
『アリー/ スター誕生』
12月21日(金)全国ロードショー
監督・製作:ブラッドリー・クーパー
出演:レディー・ガガ、ブラッドリー・クーパー
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
公式サイト:http://starisborn.jp