新垣結衣の体当たり演技に衝撃 『獣になれない私たち』が切り込む“現代社会の働き方”
周りに迷惑をかけるのに憎めない。そんな愛すべきバカに囲まれながらも、淡々と与えられたミッションを完了させていく晶なのだが、このドラマの恐ろしいのは、時折ゾッとさせられる要素が混じっているところだ。伊藤と犬飼のコメディエンヌ&コメディアンっぷりに笑わせられる一方で、晶は激務で心がすり減り、最終電車の迫る線路に飛び込もうとしてしまう。
毎日毎日笑顔でなんとか乗り切っている中、理不尽な仕打ちやセクハラなど、一見些細に見えることで人間はプツッと感情の箍が外れてしまうことがある。誰もいないオフィスで終電まで働き、1つの仕事が終わったと思えば、スマートフォンに次の仕事の連絡が届く。わたしたちはいつから24時間営業になってしまったのだろう。こんな日々が終わるなら……ある種の希望を見出し、線路に飛び出したくなる気持ちは、痛いほどわかる。
でもなにより悲しいのは、もう2年前になる『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)で新垣演じるみくりが反対した“やりがい搾取”が、現状まだまだ行われているということだ。多くの人はそこから生まれる不満を、見て見ぬふりして押し殺すことで、明日を迎えているのだろうが、『獣になれない私たち』は皆があえて無視をしていた問題に真正面からぶつかっていく。
それにしても、満員電車の窓にファンデーションを付けてしまったり、ホームの床でパソコンを開いたり、はたまた土下座までさせられたりと、“天下のガッキー”の衝撃的な姿が第1話から目白押しだった。新垣のあまりにもかわいそうな姿に同情をする一方で、それが日常となっている自分への哀れみがこみ上げてくる。
ただ、野木の物語はリアルを切り取るだけでは終わらない。『アンナチュラル』(TBS系)、『逃げるは恥だが役に立つ』でもそうだったが、辛い現実を切り取る中で必ず希望と優しさを忍ばせている。第1話のラストで晶は普段と打って変わったモードなファッションに武装し、社長の九十九に業務分担の改善要求書を突き付けた。
野木の作品がこんなにも愛され、支持される理由は、それは物語の共感性の高さと、嘘のない世界、そしてそのリアルな現実へのアンサーが示されているからだろう。勇気を振り絞り前に進もうとした晶は、同じような環境に苦しむ大人たち全員の希望の光になることに違いない。これから約3か月間、わたしたちの苦しみを支えるサプリメントのようなドラマが新たにスタートしたことが喜ばしい。
(文=阿部桜子)
■放送情報
『獣になれない私たち』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜放送
出演:新垣結衣、松田龍平、田中圭、黒木華、菊地凛子、田中美佐子、松尾貴史、山内圭哉、犬飼貴丈、伊藤沙莉、近藤公園、一ノ瀬ワタル
脚本:野木亜紀子
演出:水田伸生
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:松本京子、大塚英治
協力プロデューサー:鈴木亜希乃
制作会社:ケイファクトリー
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/kemonare/