主人公は別物だけど話は一緒? 『賭博黙示録カイジ』の中国実写版、『動物世界』の力業

『カイジ』の中国実写版、『動物世界』の力業

 しかし、この主人公が頻繁に妄想(幻覚)を見るという設定によって、本作はビジュアル面が非常に豊かになっている。前述のピエロが怪物を殺し回るシーンもそうだが、他にもカイジがいきなりカーチェイスを始めたり、ギャンブルの対戦相手がバキバキと変形して怪物化したり、金のかかった美術も相まって「ワケが分からんが、凄いものを見せられている」となること請け合いだ。ちなみに他の部分が凄すぎて霞んでしまっているが、利根川はマイケル・ダグラスである。

 主人公は別物だが、話は一緒。「面白いけど、これでいいのだろか?」原作を読んでいる者として、そんな背徳的な感覚を覚えたのは確かだ。ただ冷静に考えてみると、むしろこれは福本伸行マンガらしいのではないかとも思う。福本伸行先生は心象風景を絵で見せたり、キャラクターの顔面が凄いことになったりと、マンガならではの表現を多用するタイプの作家だ。代表作『アカギ ~闇に降り立った天才~』でも、鷲巣というキャラクターが地獄でルンバに襲われると言った滅茶苦茶な画が出てきた。主人公がピエロに変身するのは、ある意味で福本伸行マンガらしいと言えるかもしれない。

 大幅な改変を行いながら、一方で原作の「らしさ」は守りつつ、とにかく観客を退屈させまいと、あれこれ手を尽くしている。何とも奇妙な塩梅の、しかし勢いの良さは物凄い。まさに怪作と言っていい1本だ。

■加藤よしき
ライター。1986年生まれ。暴力的な映画が主な守備範囲です。
『別冊映画秘宝 90年代狂い咲きVシネマ地獄』に記事を数本書いています。

■配信情報
『動物世界』
Netflixにて配信中

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