広瀬すず、初のコギャル役をどう演じた? 『SUNNY』“空白の時間”を埋めた最後の表情

広瀬すず、初のコギャル役をどう演じた?

 また女子高生時代の奈美の役回りも印象的だ。奈美目線で物語は進むものの、奈美が一度も「サニー」の中心に立つことなく、女子高生パートは終わる。一方現代パートでは、末期ガンに冒された芹香(板谷由夏)のために奈美が中心となって行動を起こす。女子高生パートでの奈美は、あくまでも“「サニー」のメンバーの1人”という役回り。賑やかな毎日を送っているとはいえ、どちらかと言うと受け手側に立っている印象だ。しかしその印象は、芹香と再会するまで“何か物足りない日々”を感じていた奈美に通じる。広瀬演じる奈美と篠原演じる奈美の間の時間をわざわざ描かなくとも、空虚な時間を感じさせる、そんな演出だった。

 女子高生パートは、奈々の身に起きる“事故”で幕を閉じるのだが、その時の奈美の愕然とした表情が印象に残る。その事故がきっかけで、彼女たちは20年以上音信不通になった。その空白の時間が映像に映し出されることはないが、広瀬演じる奈美の愕然とした表情だけで、その失われた時間の重さが伝わってくる。青春を謳歌していた彼女たちにとって、何かが欠けてしまった瞬間だったのだろう。

 広瀬が見せる最後の表情は、映画冒頭の“物足りなさ”を感じている篠原の表情につながっている。劇中、広瀬すずと篠原涼子が同一人物に感じる瞬間が何度もあった。過去と現在の姿を別の役者が演じるのは決して珍しい演出ではないが、描かれていない空白の時間を埋めることのできる役者は滅多にいないだろう。

 なお、広瀬のコメディエンヌっぷりにも注目だ。転校したばかりの奈美のおどおどとした態度も面白いのだが、ことあるごとに顎がしゃくれる癖にも思わず笑ってしまう。映画中盤、喧嘩に巻き込まれた芹香を助けようと、目を剥き出し、関西弁でまくしたてる広瀬の姿は衝撃的だ。白目をむき、妙な動きで相手を牽制する姿は非常にコミカルだが、広瀬の振り切り方が清々しいシーンでもある。広瀬の演技の振り幅に、ぜひ驚いていただきたい。

■片山香帆
東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。

■公開情報
『SUNNY 強い気持ち・強い愛』
全国公開中
監督・脚本:大根仁
出演:篠原涼子、広瀬すず、小池栄子、ともさかりえ、渡辺直美、池田エライザ、山本舞香、野田美桜、田辺桃子、富田望生、三浦春馬、リリー・フランキー、板谷由夏
原作:『Sunny』CJ E&M CORPORATION
音楽:小室哲哉
配給:東宝
(c)2018「SUNNY」製作委員会
公式サイト:http://sunny-movie.jp/

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