『判決、ふたつの希望』監督が語る、レバノンからのインスピレーション 「葛藤や衝突からいい物語が生まれる」

『判決、ふたつの希望』監督インタビュー

「レバノンは僕にインスピレーションを与えてくれる」

ーーキリスト教徒のレバノン人であるトニーと、ムスリムのパレスチナ人であるヤーセルの対立が主軸に物語が展開していきます。この2人の人物造形はどのように行ったのでしょう?

ドゥエイリ:トニーの人物造形は、僕自身がお世話になった、実際に自動車修理をやっている人物が基になっていて、トニーという名前もこの人からきているんだ。このトニーはキリスト教徒の右寄りの民兵なんだけれど、レバノンの右寄りのメカニックはなぜかドイツ車しか扱わないんだ。僕にも理由は分からないんだけど、サポートするサッカーチームもドイツだったりドイツ関連のものが好きで、それは劇中にも反映させたよ。国でいうと、実はこの作品は中国での公開も決まっていたんだけど、劇中での“あるやり取り”が理由で、決まってから2週間後に契約が破棄されてしまったんだ。それはとても残念な出来事だったね。ヤーセルの方はいわゆるレバノンにおけるパレスチナ難民の姿を反映させているよ。非常に頭のいい人たちなんだけれど、未だに就労することがほとんどできず、ヤーセルのように違法に仕事に就くしかないんだ。

ーー人物造形にはリアリティを持たせたわけですね。

ドゥエイリ:この作品自体は現実を直接的に反映しているわけではないけれども、実際にベイルートで起こったことの精神的な部分を反映した映画だとも言える。逆に言えば、2つのコミュニティがぶつかり合うという構図は、ベイルートではもちろん、世界中のどこでも起こり得る、ものすごく普遍的なものなんだ。劇中では、トニーとヤーセルの諍いに、やがて大統領までが介入してくる。これは、脚本を書いている当時、アメリカで、ある黒人教授が自宅で白人警官に逮捕されことを人種的偏見だと訴えた問題に対して、オバマ大統領(当時)が2人をホワイトハウスに招いて和解を試みたというニュースを見たことが影響しているんだ。大統領のような立場の人でも、そのようなパーソナルなことに関わることができるということを描きたくて、脚本に取り入れることにしたんだ。オバマ大統領ができるなら、レバノンでもあり得るだろうとね。

ーーリアリティを意識しつつも物語はフィクションであると。

ドゥエイリ:まさにその通りで、確かに現実にベースが置かれているかもしれないけれども、この映画はドキュメンタリーではなく、フィクションにすぎない。僕は、映画の醍醐味はそこにあると思うんだ。実際にあったことからインスピレーションを受けて、何か現実を超えたものを作るということ。そして、観客を映画の旅に誘う。共感できるかどうかはその人自身だったり映画の内容だったりによると思うけれども、少なくとも旅路を楽しんでもらうことが、“映画のマジック”だと思うね。

ーーちなみに、映画の冒頭で、「ここに描く見解は監督と脚本家のものであり、レバノン政府の政策や立場を表すものではない」というクレジットが入っていたのが気になったのですが、これはどういう意図で?

ドゥエイリ:実はあのクレジットは、僕としては、日本を含めレバノン以外の国での上映では入れないでほしかったんだ。レバノン国内での上映に際して、レバノン政府の要請で入れた、何か問題があったときに自分たちを守るためのエクスキューズのようなものだからね。レバノン以外の国の人があのクレジットを見たら、僕が政治的なメッセージを発信しているようにも思われてしまうので、それはちょっと心外にも感じるよ。

ーーそうだったんですね。最後に、レバノンにおける映画製作の実情を教えてください。

ドゥエイリ:レバノンで作られる映画は、多くて年間で7本ぐらいのレベルなんだ。映画がほとんど作られていないから、映画業界自体も弱い。ただ、僕は映画作家として、この国からものすごくインスピレーションを受けているんだ。まだまだ問題や混乱が山積しているからこそ、いろいろなアイデアがあったりストーリーの種があったりするんだ。ストーリーテリングはパーソナルなものであるべきだと思うし、葛藤や衝突からいい物語が生まれると思う。逆に、そういうものなしにいい映画は生まれないんだ。これは僕がよく言っていることなんだけれど、僕にインスピレーションを与えてくれるのがレバノンで、お金を出してくれるのがフランス、そして映画を観に来てくれるのがアメリカなんだ。

(取材・文・写真=宮川翔)

■公開情報
『判決、ふたつの希望』
TOHOシネマズ シャンテほかにて公開中
監督・脚本:ジアド・ドゥエイリ
脚本:ジョエル・トゥーマ
出演:アデル・カラム、カメル・エル=バシャ
提供:バップ、アスミック・エース、ロングライド
配給:ロングライド
2017年/レバノン・フランス/アラビア語/113分/シネマスコープ/カラー/5.1ch/英題:The Insult/日本語字幕:寺尾次郎/字幕監修:佐野光子
(c)2017 TESSALIT PRODUCTIONS-ROUGE INTERNATIONAL-EZEKIEL FILMS-SCOPE PICTURES-DOURI FILMS
公式サイト:longride.jp/insult/

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