『チア☆ダン』は“古い常識”を一掃する清々しさ! 部活系青春ドラマとしての王道と革新性

『チア☆ダン』は“古い常識”を一掃する

容姿をギャグにするのは古臭い。2018年的なキャラクター設定

 もうひとつ『チア☆ダン』から見る現代性を挙げるとすれば、そのキャラクター設定だ。こうした群像劇を描くとき、チームのひとりに“容姿が個性的”な人物を入れるのが長年のお決まりだった。

 部活系青春ドラマのルーツと言える『がんばっていきまっしょい』では、1998年の映画版、2005年のテレビドラマ版(カンテレ・フジテレビ系)の両方に「イモッチ」というあだ名の女の子が登場する。わかりやすさを選択したのだろう。特に藤本静が演じたドラマ版の「イモッチ」はよりイモっぽさが強調され、鈴木杏、相武紗季、岩佐真悠子、佐津川愛美と美少女が並ぶ中、見た目から三枚目的な演出が施された。

 映画『フラガール』でその傾向はさらに顕著になり、フラガールズの一員に山崎静代を起用。結果的に素晴らしい演技で観客の涙を誘ったが、容姿の面では明らかに個性派枠だった。これも決してこの2作に限ったことではなく、古くは『ふぞろいの林檎たち』(TBS系)の柳沢慎吾と中島唱子のように、キャラクターのバリエーションを広げるために、見た目に差をつけるのは群像劇の正攻法として信じられていたのだ。

 だが、『チア☆ダン』にはこうした“容姿が個性的”な女の子は登場しない。これはチアという競技の華やかさを意識してのことかもしれないが、それ以上にこの2018年に容姿で笑いをとるのはあまりにも古典的という制作者の気概の方を強く感じる。人の容姿に対して「ブス」「デブ」と貶めてギャグにしたり、一定の年齢以上の女性を「オバさん」扱いしたり。テレビの世界は、長らくこうした差別的表現に対して、よく言えば寛容、悪く言うと無神経だった。

 しかし、『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)の最終回で百合ちゃん(石田ゆり子)が放った「呪い」の名台詞以降だろうか、容姿や年齢といった逆らいきれないものを取り上げて笑いものにする風潮に対して、もう我慢したり諦めたりせず、私たちは「古臭い」「つまらない」と主張していいんだという空気が沸き上がっている。ハラスメントに対する意識も、ようやく世間一般に浸透してきた。その結果が『チア☆ダン』だとすると、優等生、一匹狼、メガネと定番キャラの見本市のような中で、「ブス」「デブ」キャラに該当する人がひとりもいないのは、これからのテレビドラマのあり方さえ感じさせてくれる。

 『チア☆ダン』は部活系青春ドラマとして王道を踏みながらも、教師のブラック労働問題を取り入れるなど、世相をナイーブにくみ取った上で制作に臨んでいる。そう考えれば、異性の目を引くことより自分の好きなことに没頭する姿も、無神経に仲間を笑いものにしないキャラ設定も、実に2018年的だ。『チア☆ダン』を見て余計なストレスを感じることなく清々しい余韻に浸れるのは、時代の価値観にマッチした誠実なつくりに理由があるのかもしれない。

■横川良明
ライター。1983年生まれ。映像・演劇を問わずエンターテイメントを中心に広く取材・執筆。人生で一番影響を受けたドラマは野島伸司の『未成年』。Twitter:@fudge_2002

■放送情報
『チア☆ダン』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜放送
出演:土屋太鳳、石井杏奈、佐久間由衣、山本舞香、朝比奈彩、大友花恋、箭内夢菜、志田彩良、オダギリジョー、佐生雪、溝口恵、福地桃子、堀田真由、伊原六花、足立佳奈、石崎なつみ、坂ノ上茜、守屋ことり、八木莉可子、阿川佐和子、木下ほうか、高橋和也、紺野まひる、松本若菜、本多力、森矢カンナ、木原勝利、広瀬すず、新木優子
原作:映画『チア☆ダン』製作委員会
脚本:後藤法子、徳尾浩司
プロデューサー:韓哲
協力プロデューサー:高山暢比古
演出:福田亮介、金子文紀
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/cheerdan_tbs/

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