>  > 荻野洋一の『ウインド・リバー』評

新たな“現代西部劇”創出の予感 『ウインド・リバー』が描く苦痛に満ちた西部史

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 『ウインド・リバー』というきわめて地味な、だが孤高の美しさと悲しみをたたえたこの聡明なアメリカ映画は、現代にはたして西部劇は成立可能なのかについて、大きな問いを投げかける。そしてワイオミング州のネイティヴアメリカン保留地ウインド・リバーを舞台とする犯罪ミステリーでありつつ、現代においても西部劇は成立するのだと無言のうちに宣言する。いや、今日にふさわしい「現代西部劇」の樹立を宣言しているのだ。そして皮肉なことに、ワイオミングという辺境の州は、マイケル・チミノ監督『天国の門』(1980)の舞台となった土地ーーつまりその超大作の興行的失敗をもって、アメリカ映画史において事実上、西部劇が滅んだ不吉な土地ーーなのである。

 周知のごとく、アメリカ合衆国史はインディアン(ネイティヴアメリカン)討伐の歴史であり、土地簒奪の歴史だ。映画ジャンルとしての西部劇は、開拓時代を題材とする壮烈かつ勧善懲悪の時代活劇としては事実上、終焉をむかえている。しかし土地簒奪の状況は現代もなお続いているわけだから、「現代西部劇」が成立可能どころか、「西部劇はもう存在しない」と断じることじたいが西部史に対する記憶喪失を助長することにもなる。

 あたり一面真っ白な、月光に照らされた真夜中の雪原を、アラパホ族の若い女性が走っている。絶望的な表情、叙情的なモノローグ。しかし彼女はやがて上映時間の数分もたたぬうちに、無残な死体に変わり果ててしまう。どこかで誰かに性的暴行を受け、逃亡中にワイオミングのきびしい冷気が肺の中に入り、吐血死におよんだ。なんとも痛ましい死であり、『ウインド・リバー』という映画は、犯人捜しのミステリーとして進行するいっぽう、少女の死に対する悼みのトーンを失わずに進んでいく。

 キャスティングが秀逸だ。遺体の第一発見者であり、主人公である国立野生生物局の白人ハンター、コリーをジェレミー・レナーが演じ、事件を受けて派遣された女性FBI捜査官ジェーンをエリザベス・オルセンが演じている。つまり、この2人は『アベンジャーズ』シリーズにおける矢の名人ホークアイと超能力女性スカーレット・ウィッチの組み合わせの復活なのだ。また、部族警察の署長ベン役に、オナイダ族出身のグラハム・グリーンが出演している。彼はケヴィン・コスナーの『ダンス・ウィズ・ウルブス』(1990)で “蹴る鳥” 役を演じ、アカデミー助演男優賞にノミネートされている。寒冷地についてまったくの素人であるFBI捜査官ジェーンにとって今回の任務は、孤立無援と重責、恐怖に満ちたものとなる。最初の登場シーンですでに彼女のレンタカーは、視界不良のため立ち往生する。犯罪ミステリーまたは西部劇であると同時に、若い女性の成長の物語でもある。

      

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