ジョニー・グリーンウッドとの制作の裏側 『ビューティフル・デイ』監督が語る、映画音楽の重要性
「ジョニー・グリーンウッドの音楽家としての幅の広さに驚いた」
ーー音楽は前作『少年は残酷な弓を射る』に続いてジョニー・グリーンウッドが担当しています。前作やポール・トーマス・アンダーソン作品での音楽とはまた異なる、映画音楽家としての新しい一面が見れた気がしました。
ラムジー:どんな音楽にも興味を持っていて才能に溢れている彼との仕事はとても楽しいの。今回も割と最初の段階から彼と話はしていたのだけれど、レディオヘッドがツアー中だったから、実際にできるかどうかわからないという状態のなかで、ネズミにチーズをかざすような感じで、少しずつ編集中の映像をジョニーに送っていたの。そうしたらまんまと作品の世界にハマってくれたようで、「是非やりたい!」と(笑)。『少年は残酷な弓を射る』の音楽は、どちらかというと音響に近くて、雰囲気を作るイメージだった。今回は私にとっても初めてのスコアと言えるぐらいだったのだけれど、今振り返ってみればクレイジーなやり方をしていた気がするわ。
ーークレイジーというと?
ラムジー:撮影や編集を進めていくにつれて、予算がどんどんなくなっていくという状況になってしまって、最終的に音楽にかける予算がほとんどないということになってしまうのは絶対に嫌だったから、先にミュージシャンを押さえてレコーディングをすることにしていたの。プロデューサーたちからも「後でいいのでは?」と言われていたのだけれど、そこは徹底的にこだわってかなり早い段階から音楽は準備してもらっていた。逆に、出来上がったスコアが画の編集に影響を及ぼしたぐらいだったわ。このすぐ後に『ファントム・スレッド』の音楽をやっていたけれど、あなたが言うように本当に全く違う音楽だったから、ジョニー・グリーンウッドの音楽家としての幅の広さには驚かされた。
ーーシーンに応じて音楽も大胆に変わっていた印象でしたが、どういった音楽にするかはお互い話し合って作っていったのですか?
ラムジー:ジョニーには準備段階からジャンル映画のこの音使いが面白いとか、自分が面白いなと思った音楽は送っていたの。ただ、違った使い方というか、こういったジャンルの作品で使われるような楽曲を覆すような、ひねりがある形にしたかった。結果的に、今回の作品における音楽は、ホアキン演じる主人公のジョーの映し鏡のようになっているわ。ジョーが歩む道のりをともにするような、音楽自体がこの作品におけるキャラクターの1人のようになっているの。ジョニーとの具体的な作業方法で言うと、私が送った断片的な映像からインスピレーションを受けて、ジョニーが楽曲を制作する。それを聞いた私が、またインスピレーションを受けて編集して、出来上がったものをまた彼に送るという流れだった。映画音楽においては、ある程度編集が終わってから、音楽担当に「スコアをお願いします」というパターンが多いのだけれど、私はそれが大嫌い。音楽も映画の一部であるわけだから、一緒に作りながらコラボレーションしていきたいの。ジョニーも同じ考えで、彼はタイムコードに合わせてスコアを作るということは一切しない。画を観たフィーリングをもとに、尺などは関係なく自由に作った音楽が送られてくる。だから、実際には映画の中で使われなかった素晴らしいトラックも山のようにあるの。本当に素晴らしいのだけれど、映画としてうまく落とし込めなかったトラックがね。
ーーそうなんですね。それは是非とも聞いてみたいです。
ラムジー:本当にもったいないぐらい素晴らしいの。全てのトラックを収めたアルバムを出したいくらいね(笑)。
(取材・文・写真=宮川翔)
■公開情報
『ビューティフル・デイ』
6月1日(金)新宿バルト9ほか全国ロードショー
出演:ホアキン・フェニックス、ジュディス・ロバーツ、エカテリーナ・サムソノフ
監督・脚本:リン・ラムジー
音楽:ジョニー・グリーンウッド(レディオヘッド)
原作:ジョナサン・エイムズ『You Were Never Really Here』
提供:クロックワークス、アスミック・エース
配給:クロックワークス
2017年/イギリス/英語/カラー/シネマスコープ/DCP5.1ch/90分/PG-12
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公式サイト:beautifulday-movie.com