国産ドラマの遺伝子を引き継ぐFODの試み 若者層からの支持がカギに

国産ドラマの遺伝子を引き継ぐFODの試み

 近年の野島伸司が、配信メディアに主戦場を移しているのは、地上波に比べて表現上の制約がないからだろう。配信ドラマでの野島は水を得た魚のようで、90年代の勢いを取り戻しつつある。

 特に最新作の『彼氏をローンで買いました』は攻めている。本作は、エリートの彼氏と結婚をして専業主婦になりたいという願望を持つ浮島多惠(真野恵里菜)が、(彼氏の前で猫を被っていることの)ストレス発散のために月額39,800円のローンで彼氏(横浜流星)を購入するところから始まるドラマだ。同じFODで配信されていた野島伸司脚本の『パパ活』が、「パパ活」という現代風俗を入り口にして、野島らしい愛憎劇を文学的に描いていたのに対して、本作では人身売買をしているネットの闇サイトで主人公の女性が男を買うのだから、現実の先を行っているとすら言える。

『彼氏をローンで買いました』(c)エイベックス通信放送/フジテレビジョン

 物語自体もとても暴力的だ。多惠には恋人がいるため、男と肉体関係にはならずに、表向きはドタバタ同棲モノという感じでコミカルに描いているものの、女が男を買ってストレスのはけ口にするという暴力的な力関係を描いていることには変わらない。

 イケメンドラマの『花にけだもの』も男女入れ替わりモノのテイストを用いて暗黒の青春を描いた『ぼくは麻理のなか』もそうだが、FODのドラマに引かれるのは、男女の愛と性に絡む暴力的な力関係から目を離さずにエンターテインメントとして見せようとしているからだ。

 若い男女の関係を描くなら、やはり性欲を描かないと説得力はないし、人間を描くのなら暴力から目をそらしていては綺麗事で終わってしまう。露悪的な現実を視聴者に叩きつける作品が必ずしも良いとは言わないが、今の地上波のテレビドラマを観ていると、そういった人間の暗い面から目をそらしているように見えて、窮屈さを感じる。

『花にけだもの』(c)フジテレビジョン/エイベックス通信放送

 NHKや民放の地上波で放送されているドラマや、大資本の元で制作されている海外ドラマと比べた時、野島伸司に代表される若者の性と暴力を描こうとする国産ドラマの遺伝子を引き継ぐFODの試みは小さなものに見えるかもしれないが、ここにこそ日本の連続ドラマの可能性はあるのではないかと思う。

 おそらく今後の鍵となるのは10代から20代の若者層からの支持を得られるかだろう。しかし、ここは楽観的に捉えている。FODのドラマなどを観ていると地上波の民放各局が回収できなくなっている若者の欲望を一手に受け止めているように見える。それは危なっかしくもあるのだが、いつの時代でも若さとは、そういうものなのだろう。だったらまずは、行けるところまで突っ走るべきだと思う。

★『花にけだもの』『彼氏をローンで買いました』清水一幸プロデューサーが語る、配信ドラマ作りの仕掛け

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■配信情報


『パフェちっく!』
FODにて、毎週土曜日最新話配信中
出演:高橋ひかる、中尾暢樹ほか
原作:ななじ眺『パフェちっく!』(集英社マーガレットコミックス刊)
プロデュース:東康之(フジテレビ)
プロデューサー:黒沢淳(テレパック)
演出:山内宗信、石井満梨奈、佐野隆英、安見悟朗
脚本:三浦駿斗、木滝りま、諸橋隼人、木梨亜美
制作協力:テレパック
制作著作:フジテレビ
(c)ななじ眺/集英社・フジテレビ
公式サイト:http://www.fujitv.co.jp/p-tic/
FOD『パフェちっく!』配信ページ:http://fod.fujitv.co.jp/s/genre/drama/ser4f05/

■動画配信サービス情報
『FOD』
<利用料金>
FODプレミアム:月額888円(税抜)
月額定額の見放題コース:月額350円~1,500円(税抜)
月額ポイントコース:月額300円~2,000円(税抜)
※ポイントが足りない場合はチャージ可能

対象端末:PC(WIN・MAC)スマートフォン、タブレット(iOS対応端末・AndroidTM対応端末)
公式サイト:http://fod.fujitv.co.jp/
※本文中に記載の会社名、製品名、サービス名等は、それぞれ各社の商標または登録商標。

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