坂元裕二の休息はテレビドラマ史の節目となる 2010年代における功績を振り返る

2010年代における坂元裕二の功績

 最後に2010年代における坂元裕二の功績について書いて本稿を終わりにしたい。

 坂元はキャリアの長い脚本家で、1991年に大ヒットした『東京ラブストーリー』(フジテレビ系)、向田邦子賞を受賞した2007年の『わたしたちの教科書』(フジテレビ系)など、その時代ごとに代表作を送り出してきた。しかし、本当の意味での作家としての全盛期は2010年に発表された『Mother』(日本テレビ系)から今年の『anone』までの8年だろう。それくらい、この8年間の作品は傑作が多いと同時に単純な完成度を超えた問題作に溢れていた。

 特に『それでも、生きてゆく』以降は、震災以降の日本の現実を描こうとしたことで、テレビドラマはここまでできるのだ。という指標を示し続けてくれた。

 『東京ラブストーリー』のような大ヒット作こそないものの、彼の作品はドラマファンや同業者の間で常に注目されてきた。テレビドラマの脚本家に何度かインタビューした際に、坂元裕二の作品に言及する姿を何度も見た。坂元の影響を受けた若い脚本家が今後、多数出てくることは間違いないだろう。

 坂元がいつテレビドラマに帰ってくるのかはわからない。しかし、テレビをめぐる状況が過渡期を迎えている現在を考えると、坂元が戻ってくる頃のテレビドラマをめぐる環境は、今とは全く違うものになっていることは確かだろう。その意味でも、坂元がドラマを休むことはテレビドラマ史における一つの節目となるのではないかと思う。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■作品情報
『anone』
出演:広瀬すず、田中裕子、瑛太、小林聡美、阿部サダヲ、火野正平ほか
脚本:坂元裕二
演出:水田伸生
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:次屋尚
制作協力:ザ・ワークス
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/anone/

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