深川麻衣演じるヒロインが最大の魅力に 『パンとバスと2度目のハツコイ』の“孤独”という名の繭

『パンバス』深川麻衣の魅力が最大限

 1つは彼女が緑内障であるということ。「日本人の失明原因の第1位」であるその病気は「毎日1回決められた目薬をさすだけ、それを怠らなければ」失明することもないと彼女は言う。「それを怠らなければ」という含みは、これから起こる物語にちょっとしたスリルを与える。日々を淡々といつもの流れでこなしていく彼女に、これからいつもと違うことが起こるのではないか。そう観客に思わせるとともに、自分とは違う、小さなスリルを持ちあわせた姉の特別な習慣は、妹をしばし沈黙させ、凝視させるのである。

 もう1つは、彼女は常時擬似的な涙を流し、それを拭うという行為を繰り返しているということだ。だが、1度だけ本物の涙を流すことがある。中学時代、自分のことを好きだったさとみと再会し、彼女が「今は幸せ」と答えたときだ。彼女は突然涙し、「なんでだろう、変なの」と言う。涙の理由はそのままに物語は進んでいく。

 この目薬で瞳を潤す、カバーするというイメージは、ふみの好きなバスの洗車を内側から見た光景と似ている。窓の外が大量の水で覆われた、ある意味水の繭で保護された世界。その中では、ふみと違いねじれていない真っ直ぐな好青年といった雰囲気のたもつでさえ物憂げだ。彼もまた孤独を抱えている。

 水に覆われた洗車中のバスと彼女の目薬、そして孤独のコインランドリー。それはどれも登場人物たちを守ってくれる「孤独」という名の繭のようなものだ。

 幸せなだけの恋愛映画は好きじゃない。いつも少しだけ淋しくありたい、あなたのための映画だ。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■公開情報
『パンとバスと2度目のハツコイ』
イオンシネマにて公開中
出演:深川麻衣、山下健二郎(三代目J Soul Brothers)、伊藤沙莉、志田彩良、安倍萌生、勇翔、音月桂
監督・脚本:今泉力哉
主題歌:「Puzzle」Leola(Sony Music Associated Records)
配給:「パンとバスと2度目のハツコイ」製作委員会
(c)2017映画「パンとバスと2度目のハツコイ」製作委員会
公式サイト:www.pan-bus.com

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