渡辺謙×竜雷太、30年ぶりの共演で見事な演技合戦 『西郷どん』で見せた繊細な表情
『西郷どん』(NHK総合)第3回「子どもは国の宝」では、西郷家の生活がますます苦しくなり、西郷吉之助(鈴木亮平)と父・吉兵衛(風間杜夫)が商家から大借金をする。その道中、吉之助は、武士の身分にありながら、貧しさのため一家で夜逃げする少年・中村半次郎(中村瑠輝人)に出会う。後の桐野利秋、“人斬り半次郎”の異名で「幕末四大人斬り」とも言われ西郷に尽くすこととなる武士である。
さらに、今回の物語では、かの有名な“お由羅騒動”が勃発する。簡潔に言えば、島津斉興(鹿賀丈史)と斉彬(渡辺謙)の親子対決だ。調所広郷(竜雷太)は、厳しい財政難にあった薩摩藩を立て直した傑物だが、密貿易などの嫌疑を受け、その追求の矢面に立たされ自害することとなる。調所にとって最後の一夜となった斉彬との一場面が、視聴者の注目を集めた。
人々の窮状を訴える吉之助の思いに突き動かされた斉彬は、斉興を隠居へと追い込むべく、薩摩が異国との密貿易、琉球出兵について偽りの申し立てをしていることを、江戸幕府老中・阿部正弘(藤木直人)に密告する。阿部は江戸城に調所を呼びつけ、薩摩の申告に偽りがあったことを確認させると、斉興にも追って処罰を下すように申告。しかし、調所はすべてが自分が取り仕切ったものと罪を背負う。調所は、お咎めを受けることを覚悟した上で、阿部に「そん名を聞くまで某は死んでも死にきれもはん。そん者の名は?」と仕組んだのは誰かと弾糾する。すると、調所の後ろの障子が開き、斉彬が姿を現わす。2人はしんしんと雪が降る渡り廊下へ。
久しぶりの再会を喜ぶ調所に対し、斉彬は乾いた笑いから「心にもないことを」とつぶやく。降り積もる雪の情景が、その冷徹な2人の感情を表していた。「今宵、一献傾けんか、薩摩のこれからのことを語ろう」と誘う斉彬に、調所は「ちと、野暮用がございまして」と断る。斉彬は彼の“野暮用”を知った上で、「分かった。それが終わるまで、酒の支度をして待っておる」と続ける。薩摩のために、己が藩主となるため、調所の命を断つことを斉彬が想定していたことは間違いない。しかし、方向は違えど薩摩のためにまい進した者同士。「待っておる」という斉彬の言葉は、また違った形での方法があったはずという自責の声にも聴こえた。1987年の大河ドラマ『独眼竜政宗』以来30年ぶりの共演となった竜と渡辺。言葉の裏側にいくつもの意味を含ませながら、繊細な表情でそれぞれの役の心境を見事に体現していた。
調所は主君・斉興に処罰が下るのを防ぐべく、不正は全て己の独断でしたことであると、全ての責任をかぶって自ら毒をあおる。調所の自害の報を受け、斉彬は月に向かって献杯をする。険しい表情で「死なせとうはなかった」と言葉にする斉彬の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。薩摩の未来のため、民のために重臣の命を奪った斉彬。月を見つめるその表情には、責任と覚悟を背負った並々ならぬ決意が滲んでいた。