ケンゴマツモトの『リュミエール!』評:最初が全部詰まっていて“ずっと観てられる”映画

ケンゴマツモトの『リュミエール!』評

 “映画の父”ルイ&オーギュスト・リュミエール兄弟が1895年から1905年の10年間に製作した1422本のうち108本で構成された映画『リュミエール!』。1895年12月28日パリ、リュミエール兄弟が発明した“シネマトグラフ”で撮影された映画『工場の出口』等が世界で初めて有料上映された。全長17m、幅35mmのフィルム、1本約50秒。本作には、4Kデジタルで修復された、現在の映画の原点ともなる演出や、移動撮影、トリック撮影、リメイクなど多くの撮影技術を駆使した作品が収められている。

 リアルサウンド映画部では今回、THE NOVEMBERSのケンゴマツモトに本作を鑑賞してもらい、その感想をじっくりと語ってもらった。ケンゴマツモトはTHE NOVEMBERSとして2016年9月に6枚目のアルバム『Hallelujah』を日本人第一弾作品としてMAGNIPH/HOSTESSから発表するなど、精力的に活動を続ける一方、園子温のポエトリーリーディングセッションや映画『ラブ&ピース』にも出演している。映画や絵画を観るのが大切な趣味のひとつだと語る彼にとって、『リュミエール!』はどのように映ったのか。

僕は、“ずっと観てられる”映画が好きなんですよ

 僕は、映画をはじめ写真や絵画など芸術全般が好きなんですよね。それらに興味を持ったのは、読書や音楽が趣味のひとつだったからだと思います。幼い頃から本や音楽は身近にあったので、たぶんそれらに触れていくうちに徐々に派生していって、色んな芸術に興味を持っていったのかと思います。

 映画に関しては、特別こういうジャンルや雰囲気が好きだから観るとかではなく、面白そうだなと思ったものをまんべんなく観ていますね。わりと、旧作古い映画やモノクロフィルム、それとヨーロッパの映画、特にジャン=リュック・ゴダールやレオスカラックス等の作家が好きです。

 自分の好きな作品も、というか映画という表現のジャンルそのものがリュミエール兄弟が映画というものを作ったからこそあるんだなと思うと感慨深いです。そもそも、僕が『リュミエール!』に興味を持ったキッカケは、映画の始祖である「リュミエール兄弟」という人物の名前を元々知っていたのにも関わらず、ちゃんと彼らの作品を観たことがなかったからです。

 本作を観て、まず思ったのは、ここに収められている全長17m、幅35mmのフィルムで撮影された1本約50秒の映像の中に、映画という概念がすべて網羅されているということです。人がいて、カメラがあって、演出がある。映画の歴史が始まった瞬間から、基本的な部分が完結していることに驚きました。

 すごくコントラストがはっきりしていて、深いモノクロが綺麗なので、見惚れてしまいます。だからこそ、ちゃんと奥行きも感じられる。1分にも満たない短い時間の中で、しっかりと物語が紡がれているからなのか、122年も前の映像かつ固定カメラなのに、全く飽きない。

 フィルムや現像のテクニックが素晴らしく、また全体的にどこか気品溢れる美しさが漂っているので、モノクロ無声映画なのにも関わらず、まるでその時の喧騒が聴こえてくるような、光景が色鮮やかに蘇ってくるようなリアリズムがあります。フィルム自体が持っている麗しさや素晴らしさって絶対にあると思うんですいます。古ぼけてはいるけどジャンクなものではない。だから、ずっと観てられるのかなと。面白いですよね。完全なる無声映画なのに、あんなに興味深く観られるのが不思議で仕方ないです。大きな出来事が起きるわけではないのに、なぜだかずっと観ていられるんですよ。なんでなんでしょうね。今観ても、鑑賞に耐え得る画と言いますか、きっといつの時代に観ても感動する画なんだなと。どんなに時が経っても古臭さを感じさせないのは、そこに映画の根源的な魅力が詰まっているからなのではないでしょうかなのかと思います。

 言葉や理屈では説明できない、なぜだかわからないけど、どうしようもなく心惹かれる作品。まさにそれこそが、映画、ひいては芸術全般の醍醐味だと思うんです。そう思うと、リュミエール兄弟の作品は、まさに映画の原点なんだなと実感します。同時に、時代が変わろうと、彼らの持ち合わせている芸術的な感覚は、簡単に揺らぐものではないんだなと改めて感じました。

 『露営のダンス』は、映画史初の理解不能な作品と言うナレーションが入っていましたが、それ以前の作品もすべて理解はできないですよね(笑)。リュミエール兄弟が何を意図して撮ったのか、本当の意味を理解できるわけがないんですよ。

 ただ映画史という長い歴史がスタートした時点で、すでに100年後に生きる現在の僕たちも感じられる面白さが詰まっていたんだと思うと、すごいですよね。それだけの力がある表現が始祖だったからこそ、今日まで映画が生き残ってるのかもしれませんね。

 僕は、“ずっと観てられる”映画が好きなんですよ。映画を観る時には、もちろんストーリーや、好きな役者さんが出演しているか、どの監督は誰なのかの作品かなどにも着目しますが、たとえ内容がよくわからなくても、“観ていられる”映画なら好きだなと思えるんです。だから、鑑賞に耐えう得る画かどうかを最も重要視しているのかもしれません。僕は映画に限らず、感動するポイントが“画”にあるんだと思います。それは、音からイメージする画も然りなんですが。

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