アメの綾野剛、ムチの星野源ーー『コウノドリ』が描く“優しさ”に深みがあるワケ
「出産」をテーマに、産婦人科医・鴻鳥サクラと医療チーム、妊婦、あるいは夫婦・家族の思い、生まれてくる「命」と、医療現場の現実を描くドラマ『コウノドリ』(TBS系)。その続編が10月からスタートしたが、前作に比べてさらに比重が大きくなっているのが、綾野剛演じる主人公・鴻鳥サクラと、星野源演じる四宮春樹の関係性である。
四宮は、シーズン1の序盤では、無表情で笑わず、患者に対して冷たすぎるほどの「正論」をストレートに吐くキャラクターとして描かれていた。しかし、実は「冷たい正論キャラ」でないことが、物語が進むにつれてわかってくる。意外にも、研修医時代には「腕が良く、爽やかで笑顔が可愛かった」こと。「笑わなくなった」のには理由があること。それは自分の「優しさ」によって、妊婦の喫煙を厳しく注意できず、死なせてしまった上、赤ちゃんに障がいが残ってしまったことに自責の念を持っているためだということ。そんな「過去」が明らかになるにつれ、四宮の一見冷たく見える目や態度、言葉の中に、実は妊婦と赤ちゃんの安全を誰より強く願っている温かみが感じられ、視聴者は心をわしづかみにされた。
それが続編になってからは、「ツンデレ」どころでなく、はっきりと「良い人」感が露わになっている。サクラの「優しさ」が、妊婦にも医師にもリスクとなることをズバズバ指摘する四宮。しかし、その実、サクラの様子を常に遠くから心配そうに見守り、表情の変化や危機に敏感に気づき、必要がある場面では、誰より速く手を差し伸べたり、フォローしたりする。
第3話で、産後うつにより、屋上から飛び降りて自殺しようとした母親のもとに真っ先に駆け付けたのも、四宮だった。それでいて、母親に産後うつの説明をする役目は、「お前のほうが得意だろ」と優しいサクラに任せ、自分はあくまで陰でフォローをする。
サクラはおそらく自分の優しさの危なっかしさに気づいているし、それでも前に突き進めるのは、冷静に、客観的に俯瞰から見てフォローしてくれる四宮という存在の頼もしさがあってのものだろう。
一方、四宮も、自身の「優しさ」が招いた悲しい過去を背負いつつも、サクラの「優しさ」が生む力を誰より信じ、それに救われている節がある。それが強く感じられたのは、第2話。がんが発覚した妊婦に対し、「お母さんのがんの進行を考えて、28週で産ませたい」というサクラと、「赤ちゃんの安全を考えたら32週までは引っ張るのが妥当」という四宮とで、意見が対立するが、28週で出産→赤ちゃんは無事生まれ、お母さんのがんも治ったという「運の良い結果」になった。このとき、「お母さんの思いが(がんに)勝った」というサクラに、四宮は言う。「母親の手で、子供を育てさせたいっていうお前の思いが勝ったんじゃないか」。