森山直太朗は“捉えどころがない日常”を表現するーー劇場公演『あの城』千秋楽を振り返って

森山直太朗『あの城』千秋楽レポート

 森山直太朗劇場公演『あの城』(下北沢・本多劇場/9月14日~10月1日)が10月1日、千秋楽を迎えた。

 音楽ライブと演劇を融合させた森山の劇場公演は、2005年の『森の人』、2012年の『とある物語』に続いて、5年ぶり3作目。本作も過去2作と同様、作・演出を森山の楽曲の共同制作者である詩人の御徒町凧が手がけ、劇中で使用される楽曲の詞曲を森山と御徒町が担当した。出演者は森山のほか、皆本麻帆、富岡晃一郎、町田マリー、黒田大輔といった個性的な俳優陣に加え、メジャーデビュー15周年を記念した全国ツアー『絶対、大丈夫』(2017年1月~7月)のバンドメンバーを務めた河野圭(Piano)、西海孝(Guitar)、朝倉真司(Percussion)、須原杏(Violin)、林田順平(Cello)も参加。演劇人と音楽人による有機的なコラボレーションが実現した。


 『あの城』の登場人物は、敵国に侵略されて“あの城”から逃げてきた、幼い王子とその取り巻き。「いつかは城に戻りたい」という思いを抱きながら国境近くの森の奥で野営を続けるのだが、徐々に食料も底をつき、生活を共にする人々の関係にも微妙な変化が生まれる。ナオタリオ(森山)、ミナ(皆本)、ダン(富岡)、カレン(町田)、エトー(黒田)、ニシミ(西海)、ティンジ(朝倉)は、敵国と戦う覚悟を決めて城に戻るべきか、王子を守るために逃亡を続けるべきかと決断を迫られるが、右往左往しているうちに“あの城”が敵国の手によって燃やされてしまう。戻るべき場所を失った彼らは、さらに混迷した状況に直面することになる。

 『あの城』で描かれたのは、ひとつの理想を掲げて逡巡する人々の物語だ。ダイナミックな展開は「いつか戻ろうと思っていた“あの城”が焼け落ち、なくなってしまう」という部分くらいで、あとは淡々とした日常(といっても森の中の野営だが)が続く。そのうちに“あいつ、食べ物を横取りしてないか?”とか“敵国と戦うとか、口だけだろ”とか“あいつとあの子、ヤッちゃったらしいぜ”みたいな些末なことに翻弄され、掲げていたはずの理想はどこかにいってしまう。ストーリーのなかに胸がすくようなカタルシスはないし、伏線が回収される気持ち良さもないのだが、舞台を見ているうちに“これは我々の日常そのものだ”と気付く。そう、本作で描かれる“捉えどころがない日常”こそが御徒町凧と森山直太朗の表現の本質なのだ。

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