韓国版ゾンビ+鉄道パニック映画『新感染』はなぜ世界で絶賛された? ヨン・サンホ監督インタビュー

『新感染』監督インタビュー

 韓国でオープニング成績歴代No.1を記録した『新感染 ファイナル・エクスプレス』が、本日9月1日より公開される。本作は、第69回カンヌ国際映画祭を筆頭に、各国の映画祭で話題を呼んだサバイバル・アクション映画。感染した者は凶暴化してしまう感染爆発(パンデミック)が、高速鉄道の車内で突如起こる模様を描く。リアルサウンド映画部では、本作の監督を務めたヨン・サンホ氏にインタビュー。斬新なアイデアに満ちた本作がどのように制作されたのか、その裏話を聞くとともに、監督が現在の韓国映画界をどのように見ているのかまで、たっぷりと話を聞いた。

「何か企画する時は、その映画のイメージを絵で描いておく」

ヨン・サンホ監督

ーーゾンビ映画+鉄道パニックというアイデアはどこからきたのでしょうか? また、参考にした作品はありますか?

サンホ:『ソウル・ステーション/パンデミック』(9月30日公開)というアニメーションを企画していた時、投資・配給会社から『ソウル・ステーション/パンデミック』を実写映画としてリメイクしてみないかという提案がありました。それなら、同じ映画をアニメから実写にリメイクするよりも、新しい作品を作った方がよいと思い、ゾンビが列車の中で急速に増えていく状況を描く映画を企画することになりました。そのような企画を思いついた理由は、コーマック・マッカーシーの『ザ・ロード』のような、滅亡していく世界の中での父と息子の関係、違う世代同士の物語を描いてみたいと考えていたからです。そしてスティーブン・キングの『ミスト』のように、閉ざされた空間での群衆と人間の心理をアクション映画として作りたいという考えも同時に持っていました。その結果、『新感染』を企画することになりました。プサン行きのとても狭い列車の中で展開するアクションを構想していたところ、韓国で列車に乗ると、数多くのトンネルを通ることを思い出し、トンネルをゾンビの特徴と結びつけたら新しいアクションを作れるのではないかと考え、暗いところでは動きが鈍るなど、ゾンビのいろいろな特徴を作り出しました。

ーーゾンビの演技がそれぞれ違った個性があったのが印象的で、より魅力的に見えました。モブシーンが多いですが、どのように演出したのですか? 

サンホ:振付師の先生にお願いして、ゾンビの動きを作ろうと思いました。それで振付師の先生とミーティングをしたら、この作品の前に『哭声/コクソン』で同じような仕事をしていたそうです。ナ・ホンジン監督は徹底的に準備するスタイルですよね。『哭声/コクソン』では尺の短いシーンで、実際に使うのは1つなのに、すごくたくさんのパターンの動きを準備したとのことでした。今回はそれを応用させていただいて、「これと、これと、これに」という風に決めさせていただきました。『哭声/コクソン』の制作チームに感謝します。

ーー個々の動きも面白いですが、電車に大量の感染者がくっついてひきずられるシーンは、非常に斬新で衝撃的でした。あのシーンはどんな風に着想したのでしょう?

サンホ:今おっしゃったシーンは、実はシナリオ上にも、コンテにもなかったんです。撮影を進めていく中で、主人公が感染者に追われて逃げて……というシーンはたくさん撮っていたんですけれど、ちょっと単調じゃないかという意見が制作チームから上がってきまして。あのシーンも、私が最初に想定していたのは、ただ主人公が逃げてきて汽車に乗るだけでした。そこで私は、近くの宿で色々と考えて、電車にゾンビたちがたくさん引きずられるコンテを思いついたんです。それを制作チームに見せたら、「これでいこう」ということになりました。

ーー先に絵を描いて、それを映像的に膨らませていくのは、アニメ作品も手がけているヨン・サンホ監督ならではのやり方だと感じました。

サンホ:そうですね。私は何か企画する時に、まったく同じではないにしてもその映画のイメージを絵で描いておく方なんですね。もちろん、実際に描いたイメージがそのまま映像になる場合もあれば、まったく違ったものになる時もあります。しかし、イメージを絵にして描きとめるということは、常に行っています。そこからストーリーが膨らむことも多いです。

ーーアニメ作品は、明確にコンテなどを作り込んで、計画的に制作していくパターンが多いと思います。今回の実写作品では、ある程度、現場で判断を変えたりもしたということでしょうか?

サンホ:そうですね。今回の『新感染』という作品も、アニメを撮るときと同じように、計画を立ててその通りに撮ったと思う方が多いと思いますが、かなりの部分を現場で脚色しています。たとえば、列車の中でホームレスが空き缶を踏んでしまうシーンがありますよね。あれも現場で入れたシーンでした。韓国の実写映画の現場では、その場で編集をして、色々と脚色していくことも少なくありません。逆に、実際に映像を見たら、このシーンは別に必要がないと感じることもあります。その場合は、潔くその場でカットしてしまう。今回の作品は、撮り終わってからの編集がすごく早かったんですけれど、それは現場でリアルタイムに編集をしていったからこそです。

「映画の中で、様々な倫理的な問いかけをしています」

ーー今回のストーリーは、主人公の成長物語であるとともに、親子の絆を描いたものでもありました。こうしたテーマを扱う上で、最も重点を置いた部分はどこですか? 

サンホ:まずは登場人物の行動パターンを、平凡なものにするという部分に重点を置きました。キャラクターについては、庶民を描きたかったです。特殊部隊の要員や大統領などといった特殊な人物ではなく、我々が日常的に接する平凡な人物のドラマを描こうと思いました。僕の作品はすべてそうなのですが、権力関係の話をする時も、上流階級ではなく、庶民のドラマや争いを描いています。というのも、僕は上流階級の人間ではないので彼らのことをよく知らないし、日常的な人々のドラマを描く方がリアリティのあるものが撮れると考えているからです。

ーー主人公のソグの職業がファンドマネジャーなのは?

サンホ:この映画を撮る前に、私は「世界の終末を描く時にどんなテーマにすべきか」を自問自答しました。そして考えた末に、「成長中心の社会で我々は次世代に何を残してやれるのか」というテーマが浮かび上がってきたんです。そこで、主人公の職業は成長社会を代弁できるものにしようと、ファンドマネジャーに決めました。

ーー平凡な庶民を描くことで、普遍性のあるストーリーに仕上がっていると感じます。一方で、韓国映画ならではの美意識や価値観も、色濃く現れている作品だとも思いました。その辺りは、どれくらい意識したのでしょうか?

サンホ:この『新感染』という映画の中では、様々な倫理的な問いかけをしています。そのひとつの例として、ホームレスの存在が挙げられると思います。乗客たちのほとんどは一般的な人々ですが、ホームレスというのは一般人には含まれません。かといって、ゾンビのように明らかに異質な存在でもないわけです。そんなホームレスの人に対してどう接して、どんな風に受け入れるのか。それが、この映画における倫理的な問いかけのひとつであり、それはそのまま韓国社会の倫理的な問題のひとつでもあります。この作品が外国で上映されたときに、その問いかけに対してどんな答えが出るのかも、私が気にしているポイントです。

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