車だけで完結した世界ーー『カーズ/クロスロード』世代交代のすがすがしさ
吹替版で受けた感銘は、若い女性車がセクハラもうけず立派に男性車たちのトレーナーとして成り立っているという卑近な事実の確認から始まり、さらに、対等かそれ以上の走りをみせるレーサーとしてのポテンシャルをも兼ね備えているという喜ばしき事実の確認、また、魅力的でありながらマックィーンら男性車の恋愛の対象にはならず、彼女自身もマックィーンへのリスペクトを恋愛感情と結び付けることなく友愛に発展させ、自身の能力を伸ばしていくことができるというやはり喜ばしき事実の確認──これらを通して生じたものだろう。
オリジナル版では、すでに中年にふさわしい貫禄がクルーズにあるため上記の達成──ひじょうに細やかな配慮でなしとげられたものだ──が吹替版ほど新鮮な印象を与えないようにも思える。だが、オリジナル版には別の決定的な感銘もある。エンディングの曲が女性の歌だからだ(ZZ Ward「Ride」)。吹替版のテーマ曲は奥田民生による「エンジン」で、作品はこれまでどおりマックィーンの物語として幕をとじるだろう。だが、オリジナル版の終わりで女性ボーカルが高らかに「自分の歌」を歌いだすとき、「ああ、〈彼女〉の物語だったのだ」と目を開かれる。マックィーンは主人公の座を彼女にゆずったのである。そうであるなら、とりあえず車と人間の年齢の齟齬など今は気にせず、走りださねばならない。テーマ曲も歌っているように。
■田村千穂
1970年生まれ。映画批評・研究。著書に『マリリン・モンローと原節子』(筑摩選書)、『日本映画は生きている』第5巻(岩波書店、共著)。2017年度は中央大学にて映画の授業を担当。
■公開情報
『カーズ/クロスロード』
全国公開中
監督:ブライアン・フィー
製作総指揮:ジョン・ラセター
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2017Disney/Pixar.AllRightsReserved.
公式サイト:http://www.disney.co.jp/movie/cars-crossroad.html