新鋭監督の主要部門独占、女性監督の台頭……第70回カンヌ国際映画祭に大きな変化

カンヌ国際映画祭に起きた“大きな変化”

 一昨年の夏に日本公開されたスウェーデン製ブラックコメディ『フレンチアルプスで起きたこと』の、リューベン・オストルンド監督が手がけた最新作『The Square』が最高賞であるパルムドールを獲得し、幕を閉じた第70回カンヌ国際映画祭。昨年に引き続きテロへの厳戒態勢が敷かれ、物々しい空気の中行われた今年の映画祭は、映画界の変革を物語るメモリアルイヤーとなったのではないだろうか。

 しかしながら、映画祭の華でもあるコンペティション部門は、これまでになく異様な空気が流れていたことは言うまでもない。カンヌ国際映画祭といえば、世界中の各媒体が積極的にコンペ作品の評価をまとめる星取りを行なっているのだが、今年は例年にも増してその評価が低調。筆者が毎年この時期になるとチェックしているフランスのサイト「Le film français」では、4点満点の星取りの平均で3点以上を叩き出す作品が一本もなく、また一方で否定的な意見が集中する作品も見当たらない。“可もなく不可もなく”といった顔ぶれが揃う、なんとも地味な結果になってしまったのである。

 下馬評では有力視されていた、ミヒャエル・ハネケ(過去に2度パルムドールに輝いている)の新作『Happy End』は、賛否が分かれるような話題性もないままひっそりと姿を消す。さらに、日本から出品となった河瀬直美の『光』や、韓国から出品されたホン・サンスの『The Day After』といった常連監督の作品も相次いで無冠に終わる。(河瀬の『光』は独立部門であるエキュメニカル審査員賞を受賞したが。)

 そんな常連監督たちの無念とは対照的に、キャリアの浅い監督陣が主要部門を独占していく。パルムドールのオストルンドは長編5作目、グランプリのロバン・カンピヨは長編3作目、審査員賞のアンドレイ・ズビャギンツェフは長編5作目と、いずれも今世紀に入って監督デビューを果たした新鋭たち。

 しかも、オストルンドは「ある視点」部門の審査員賞受賞経験監督であり、カンピヨはパルムドール作『パリ20区、僕たちのクラス』の脚本家としてカンヌ経験がある。ズビャギンツェフに至っては、デビュー作『父、帰る』でヴェネツィアの最高賞・金獅子賞に輝くと、『ヴェラの祈り』で主演のコンスタンチン・ラヴロネンコに男優賞、『エレナの惑い』で「ある視点」部門審査員賞、前作『裁かれるは善人のみ』で脚本賞と、これで4作続けてカンヌ国際映画祭の公式部門を制したことになる。今後は彼らが映画界を賑わしていく存在になっていくのだろう。

 受賞結果の中で、もうひとつの大きな変化といえば、女性監督の台頭だろう。審査員団に昨年大きな話題を集めた『ありがとう、トニ・エルドマン』のマーレン・アーデや、アニエス・ジャウィら女性監督がいたこと。そして審査員長がペドロ・アルモドバルだったことが、いまだ男性優位が続く映画界へ一石を投じる受賞結果を生み出したのではないだろうか。コンペティションに出品した3人の女性監督は、いずれも何らかの賞を与えられた。前述した河瀬直美のエキュメニカル審査員賞、『You were never really here』のリン・ラムジーには脚本賞。そして、何と言ってもソフィア・コッポラへの監督賞だ。

 カンヌ国際映画祭の歴史上、女性監督に監督賞が贈られたのは半世紀以上前まで遡らなければならない。旧ソ連で、女優から映画監督へと転向したユリア・ソーンツェワが『戦場』で監督賞に輝いたのは1961年、第14回のことだ。それ以降は、ジェーン・カンピオンが『ピアノ・レッスン』でパルムドールに輝いたり、アリーチェ・ロルヴァケルが『夏をゆく人々』でグランプリに選ばれたりすることはあったが、何故か監督賞だけは縁遠かったのである。

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