『ワイルド・スピード』なぜ人気シリーズに? 新作から紐解く“ファミリー最高!”の価値観

『ワイスピ』が人気シリーズになった理由

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 また、本シリーズに説得力と安心感を与えているのは、やはりドムを演じるヴィン・ディーゼルのスター性と、懐の深さにあることは間違いない。カート・ラッセル、ドウェイン・ジョンソン、ジェイソン・ステイサム、ミシェル・ロドリゲス、そしてヘレン・ミレンと、名だたる豪傑俳優たちを従えても様(さま)になる俳優というのは、ヴィン・ディーゼルの同世代以降のなかでは、ハリウッドでも皆無といっていはずである。ドムのカリスマと親分肌に惚れて、過去の敵が次々と仲間になってゆく様子は、清水の次郎長を慕って精鋭が集まってくるような、勧善懲悪的な古い任侠の世界の表現に酷似し、日本の『悪名』シリーズにおける勝新太郎の存在なども思い起こさせる。このような日本における「任侠」のルーツは、中国の春秋戦国時代にまでさかのぼる。つまり、『ワイルド・スピード』の価値観というのは、アジア圏でもよく理解されやすい、きわめて古い感覚に立ち戻って作られているのだ。そう考えると、ファミリーの仲を裂こうとする本作の敵が、テクノロジーとインテリジェンスを後ろ盾にしたサイバーテロリストであるというのも自然な流れである。そして、ここに至る流れを作ったのが、3作から6作までを監督した、台湾系アメリカ人であるジャスティン・リンだったというのは、無視できないだろう。

 興行面で大幅に飛躍した7作目のお膳立てをしたのが、その前作となる、傑作『ワイルド・スピード EURO MISSION』だ。ジャスティン・リン監督がここで到達したのは、アメリカのアクション映画の原点である、ジョン・フォード監督『駅馬車』の活劇の精神に他ならない。アメリカの荒野を行く馬車がアパッチ族の襲撃に遭い、戦闘を繰り広げながら延々とノンストップで走り抜けていくという、荒唐無稽なまでの、ここでの刺激的な興奮の持続表現というのは、数々の後進のアクション作品に受け継がれており、『スター・ウォーズ』におけるデス・スター攻撃までの長い道のりは、その代表例といえる。『ワイルド・スピード EURO MISSION』クライマックスの、飛行機と車の長い長いチェイスシーンでの「いつまでも終わらない滑走路」というのは、明らかに自覚的に、その精神を継承しようとする試みである。巨額の製作費をつぎ込み、この興奮を最新の技術とスタントによって更新した『ワイルド・スピード』というシリーズは、この瞬間、『駅馬車』や『スター・ウォーズ』同様、アメリカを代表する大衆的アクション映画になったのだといえる。そして、その興奮は、本作のロシアでの潜水艦と車の豪快なチェイスにおける、「いつまでも渡り切らない氷河」というかたちで再現される。このあたり、本作の作り手は、シリーズが人気となった理由を的確に分析できているといえるだろう。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『ワイルド・スピード ICE BREAK』
全国公開中
監督:F・ゲイリー・グレイ
脚本:クリス・モーガン
製作:ニール・H・モリッツ
出演:ヴィン・ディーゼル、ドウェイン・ジョンソン、ジェイソン・ステイサム、ミシェル・ロドリゲス、タイリース・ギブソン、クリス・リュダクリス・ブリッジズ、ナタリー・エマニュエル、エルサ・パタキー、カート・ラッセル、シャーリーズ・セロン、スコット・イーストウッド、ヘレン・ミレン
原題:「Fast & Furious 8」
(c)Universal Pictures
公式サイト:http://wildspeed-official.jp/

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