『わたしは、ダニエル・ブレイク』が描く“貧困”は他人事ではないーーその普遍的なメッセージ

『わたしは、ダニエル・ブレイク』の普遍的な問い

 ダニエルの尊厳を決して見失わない生き方は、合理性を追い求めるあまり心の豊かさを失くしてしまうことの方がよっぽど貧しいことではないかと問いかける。貧困であるということは、恥じるべきことなのだろうか。そのような意識が、どんなに切実な声をあげても、それを押し殺し、必要なところまで届かなくさせているのではないか。少子高齢化や生活保護などを巡る一筋縄ではいかないセンセーショナルなニュースが飛び交う今、本当に援助を求めている人たちが差し出そうとした手を、気づかないうちにわたしたちは無視してしまっているのではないか。イギリスの実情を描いた本作だが、わたしたちの住む日本にとって、遠い異国の地の物語だとは到底思えない。

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 自分の名前を忘れ、いびつな社会の歯車になろうとするとき、ダニエルは当たり前のことを口にする。「わたしは、ダニエル・ブレイク。人間だ、犬ではない」という声が、ここ日本でもそろそろどこからか聞こえてくるはずだ。

(文=井田悠太)

■公開情報
『わたしは、ダニエル・ブレイク』
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて公開中
監督:ケン・ローチ
脚本:ポール・ラヴァティ
出演:デイヴ・ジョーンズ、ヘイリー・スクワイアーズ、ディラン・フィリップ・マキアナン、ブリアナ・シャン、ケイト・ラッター、シャロン・パーシー、ケマ・シカズウェ
提供:バップ、ロングライド
配給:ロングライド
(c)Sixteen Tyne Limited, Why Not Productions, Wild Bunch, LesFilms du Fleuve,British Broadcasting Corporation, France 2 Cinema and TheBritish Film Institute 2016
公式サイト:http://danielblake.jp

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