吉岡里帆、「人生、チョロかった!」のインパクト 『カルテット』の破壊的演技に寄せて

吉岡里帆『カルテット』で見せつけた存在感

 そして、最終回前の第9話。金欲しさにノクターンのオーナーである大二郎を色仕掛けに誘うも、大二郎の妻・多可美に見つかりクビに。別れの挨拶の際には、「多可美さん、どうもありがとう。多可美さんだーいすき」からのハグ。メンバーにはそれぞれ、「真紀さんわたしのことわすれないでね」「家森さん、いつスキーに連れてってくれるんですか?」と続け、別府には「えっと……」と名前が出ず、「別府です」と応えると、かぶせるように「別府さん大好き」。最後には「すずめさん、私と組んで何か大きいこと……」と誘い掛けるが、すずめは首を横に振る。

 さすがは元アイドルと言っていいのか、心がこもっていない握手会のような全員の挨拶が終わったあと、有朱はみんなを見渡し、「そうですか」と意味深な一言を放った。この一言は、壊せない4人の結束に対して負けを認めたのか、誰も引き止めないことに対してなのか、はたまたどうせみんな私のことは嫌い、ここの住民も私とは違う人種なのかという諦めの意味なのか、それとも気まずさや悔しさから出た言葉なのか。いろいろと捉えることができるが、この一言で、4人のキャラと有朱の関係を表現しているのが実に巧みである。

 去り際には、「不思議の国につれてっちゃうぞー」と言って耳に手をあて「ありすでした! じゃあね! ばいばい!」と言って退場していく。吉岡がゲスト出演したフジテレビの小堺一機司会の『かたらふ』(フジテレビ系)で、猫が大好きで癒されると言い、吉岡は小堺に猫を勧めていた。だが、このドラマを見た後だと「嘘だろう?」と疑ってしまう。それくらいのインパクトが、有朱役にはあった。

 そしてエピローグ的な最終回では、一見、セレブの外国人男性をゲットして幸せを掴み自慢しに来たようにも見えるが、ネット上では、「コンサートに来たのも、世間で叩かれているカルテットたちの無様な姿を見に来ただけ」や、「FXで儲けた金で外国人男性も車も指輪も全てレンタルして、成功した風に強がって見せている」などと言った様々な解釈が飛び交っている。ちなみに、見せつけた指輪は右手なので結婚はしていないという声もあったが、よく見ると左手薬指にも指輪はしている。声の張りがいつもより高く、目が笑っていた気もする。

 まあどちらにしろ、オーナー夫妻やカルテットにとっては、有朱が成功しようが失敗しようがどうでも良く、“鏡の国を脱出した有朱は幸せになったとさ”といったところか。しかしこれも、プロデューサーが、「このドラマの不思議なところは、視聴者の方が私たちも想像しなかったことを深読みしてくださるところです」(引用:じわじわファン増やす「#カルテット」わかりやすさを求めない孤独な挑戦)と語るように、深読みのひとつに過ぎないのかもしれない。

 吉岡は現在、多くのCMに出演し、4クール連続で民放ドラマに出演中というブレイク真っ最中。勢いだけでなく、しっかりと演技ができることがこのドラマで証明された。実力派で曲者の役者4人を相手に、ヒールとしてひとり立ち向かう姿に、女優・吉岡里帆の恐るべき実力を見た。

(文=本 手)

■番組情報
火曜ドラマ『カルテット』
毎週火曜22:00〜22:54
TBS系列
出演:松たか子、満島ひかり、高橋一生、松田龍平、吉岡里帆、富澤たけし(サンドウィッチマン)、八木亜希子、Mummy-D、もたいまさこ、宮藤官九郎
第1話ゲスト:イッセー尾形、菊池亜希子
第2話ゲスト:菊池亜希子
第3話ゲスト:前田旺志郎、中村優子、太田しずく、辻よしなり、高橋源一郎
第4話ゲスト:高橋メアリージュン、大江優成、長島敬三
第5話ゲスト:浅野和之、平原テツ、安藤輪子、森岡龍
第6話ゲスト:大森靖子、阿部力
第8話ゲスト:大倉孝二、木下政治、森岡龍、ミッキー・カーチス
第9話ゲスト:大倉孝二、篠原ゆき子、木下政治、坂本美雨
第10話ゲスト:松本まりか、伊達暁、黒田大輔
脚本:坂元裕二
チーフプロデュース・演出:土井裕泰
プロデュース:佐野亜裕美
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/quartet2017/

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