門間雄介の「日本映画を更新する人たち」第9回
『まんが島』は映画版『バイプレイヤーズ』だ! 名脇役たちは監督の腕を問う
みずからを“三文役者”と称し、規模の大小やジャンルを問わず、依頼されればどんな作品にも出演した昭和の名バイプレイヤー、殿山泰司。撮影現場の様子から大好きだったジャズやミステリー小説のことまで、飄逸な文体でたくさんの身辺雑記を残した彼の言葉に、次のようなものがある。
「ダレに監督されようと、オレとしてはやることは同じだけどね。小学生の映画監督が出現して出演したとしても、オレとしては同じである。つまり一所ケン命にやるだけさ」
続けて、「オマエの演技はいつも一所ケン命にやっているようには見えない、とアホなことをいうヤツが世の中には一パイいるけどね、ヒヒヒヒ」と付け加える諧謔が殿山の真骨頂だけど、ともあれここにはどんな状況でも粉骨砕身、作品に身を捧げるバイプレイヤーの美意識が見てとれる。
一方、監督にとってみれば、そんなバイプレイヤーたちの存在ほど心強いものはない。新たな監督が頭角をあらわす時、個性的なバイプレイヤーたちがその作家の個性と同一視されることだって、ときにはある。かつて北野武や三池崇史が評価を得はじめた頃、そこには大杉漣や遠藤憲一、寺島進の献身が確かにあった。そしてつねに一定水準以上の芝居をする、彼らの魅力をさらにどれだけ引き出せるかという点で、監督の腕は厳しく問われる。高い相乗効果を生むバイプレイヤーと監督の関係は、図のように、『バイプレイヤーズ』以降のバイプレイヤーと監督たちにも当てはまるものだ。
その点、『ろくでなし』は大西信満、渋川清彦といった本作で主演を務める“バイプレイヤー”たちと監督の奥田庸介が相互に作用しあい、それぞれの魅力を存分に引き出すことに成功した。裏社会に生きるふたりの男が、片隅に自分の居場所を見出そうともがきながら、ある姉妹と不器用な恋を育む物語。とりわけ、粗野だが純粋な男を見開いた目と朴訥なしゃべりで演じる大西に対し、前作『クズとゲスとブス』、本作『ろくでなし』と続く“クソ野郎”連作で自身のテーマを見定めた奥田が、男の悲しさや切なさ、生きづらさをめいっぱい共鳴させる。大西がみずからを何度も殴り、店舗のシャッターに頭を激しく打ちつけるクライマックスは、監督の心の叫びに役者が献身的に応えた素晴らしいシーンだ。その不器用なさまを、不器用なりに、真摯に届けようとするキャストと監督の姿は、やはり心に強く響くものがある。
*引用
『まんが島』プレス資料
『BRUTUS』2011年6月15日号
殿山泰司『JAMJAM日記』
■門間雄介
編集者/ライター。「BRUTUS」「CREA」「DIME」「ELLE」「Harper's BAZAAR」「POPEYE」などに執筆。
編集・構成を行った「伊坂幸太郎×山下敦弘 実験4号」「星野源 雑談集1」「二階堂ふみ アダルト 上」が発売中。Twitter
■公開情報
『まんが島』
監督・脚本・編集・制作:守屋文雄
出演:水澤紳吾、守屋文雄、松浦祐也、宇野祥平、政岡泰志、川瀬陽太、柳英里紗、笠木泉、森下くるみ、河原健二、細井学、長平、邦城龍明
配給:インターフィルム
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公式サイト:http://manga-jima.com/