草なぎ剛、『嘘の戦争』泣き笑いの演技の凄み “優しい嘘”は浩一を救うか?

 草なぎ剛主演ドラマ『嘘の戦争』が大詰めを迎えている。そのタイトルの通り、嘘と嘘がぶつかり合い、主人公・一ノ瀬浩一(本名・千葉陽一)が復讐を果たしていく様が描かれてきた。しかし、3月7日放送の第9話では、人を騙し、傷つけるためではない、これまでとは真逆の“優しい嘘”も観ることができた。中でも、浩一を演じる草なぎの泣き笑いの演技が話題となっている。

 幼いころに家族を失った浩一。しかも、父親による一家心中であるという嘘をつくことを大人に強要された浩一は、その後の30年間、嘘を武器に詐欺師として生きてきた。前週放送の第8話で、復讐の最終ターゲット・二科興三(市村正親)の子供たちに自身の正体をばらし、婚約者として利用した二科楓(山本美月)と、信頼を寄せられていた二科晃(安田顕)を失意のどん底に叩き落とした。さらには浩一を見守り育ててくれた「宮森わかばの家」の園長・三瓶守(大杉漣)への復讐も決意するなど、狂気に取り憑かれ、徐々に人間らしさを失っていく浩一の姿が描かれた。先週の放送終了時には「守さんだけはやめてあげて」「こんな展開観たくない…でも観たい」といった声がSNS上で多数挙がっており、第9話を固唾を飲んで見守った視聴者が多かったことを伺わせる。

 浩一は、守に制裁を与えるため、守が離婚して疎遠になっていった娘・由美子(国仲涼子)に接触を図る。結婚を控えた由美子と守を引き合わせ、祝宴モードの新郎新婦を前に、守の信頼を失落させるという作戦だ。思わずツッコミを入れたくなってしまうほどチープな合成写真(守が女遊びをしているもの)を携え、両家縁談の場に向かう浩一に対して、「本当にそれでいいのか浩一!」と問いかけてしまった視聴者も少なくないだろう。しかし、浩一は、わかばの家で目にした1枚の写真を思い出し、守への復讐を取りやめる。その写真とは、浩一、浩一の父、浩一の弟、守の娘・由美子が映ったもの。そして、赤ん坊の由美子を3人が取り囲む幸せな写真の裏には、衝撃の事実が書かれていた。「由美子誕生日・3月15日」と。この3月15日は浩一の誕生日でもあったのだ。

 ひとりぼっちになってしまった浩一を、必ず誕生日に祝い、側で見守り続けた守。ひとり娘の誕生日を祝うことよりも、守は浩一を選んでいたのだ。そして、復讐の狂気に取り憑かれていた浩一も、自身を育ててくれた恩人への感謝を、守がくれた愛を、忘れてはいなかった。浩一は由美子に「あなたのお父さんは僕にずっと嘘をついていた。本当は帰りたい家があったのに、ずっと僕のそばにいてくれた。僕の父の友人だから、それだけの理由でそばいてくれた」と言うが、守がそばいてくれた理由は決してそれだけではない。守が事件の証拠を握りつぶした後悔の念もあったからこそ、浩一を支えていたはずだ。だが、由美子にはそれを伝えなかったのだ。浩一がついた小さな嘘。守が浩一と由美子についていた嘘。それは人を騙し傷つけるものではなく、相手を救うための“優しい嘘”だった。

 結果として、浩一のついた嘘によって、親子は再びめぐり逢い、わだかまりも解消、守は長年背負い続けた苦しみからも解放された。しかし、浩一の安寧はまだ訪れてはいない。だからこそ、浩一が守を娘のもとへ送り出すべく放った一言「もう、俺、大丈夫なんで」は、心に深く残る一幕だった。憑き物がとれたかのように、柔和な表情になっていく草なぎと、相対する大杉漣の演技は、第8話を超える名シーンである。

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