NetflixはSFファンにとって「希望の光」だ!  超常現象ドラマ『The OA』に驚愕せよ

超常現象ドラマ『The OA』に驚愕せよ

 さて、未見の読者のみなさんの中には「で、The OAってそもそもなんのこと?」と思う人も多いだろう。本作の驚くべき点は、全8エピソード、約8時間の全編を観終えて口から出てくるのも「で、The OAってそもそもなんのこと?」という言葉に違いないということだ。ロシアの新興富豪の家で生まれた主人公は、事故で失明し(その時に臨死体験をする)、アメリカのある平凡な夫婦に里子に出された後、7年間失踪した後に目が見えるようになって(身体中には不思議な傷跡もできて)里親のもとに戻ってくる。そして、自分のことをThe OAと名乗るようになる。ええっと、一応OAがオリジナル・エンジェルの略だってことまではセリフの中に出てくるんだけど、そのオリジナル・エンジェルが何を意味するかについては、完全に視聴者の解釈にゆだねられているのだ!

 そんな強烈なツカミを持つ本作『The OA』。リアルサウンド映画部の編集部では、ほとんどの部員はこの年末年始にかけて本作を最後まで完走していたが、その解釈をめぐって会議が紛糾。これまでのマーリングの作品同様に主要テーマは「SF≒超常現象」と「宗教」なのだが、マーリングの過去作の免疫がないと「なんだこれ?」で終わってしまう可能性がないとは言えない。

 しかし、どう考えても映画化困難で、仮に映画化されていたとしても(後にカルト作品として語り継がれていくことはあっても)インディーズで少ない予算で製作され、本国で細々と公開、普通に日本では公開スルーされそうなこの作品が、こうして潤沢な資金で8エピソードという贅沢な尺で製作されて、世界中に配信されるやいなや多くの熱狂的なファンを生んでいるという現状は快挙と言えるだろう。なにしろ、これまでマーリングの「才能」と「狂気」について熱く語ろうにも、語る相手がなかなか見つからなかったのだ。それが、「家に帰ったらNetflixで『The OA』見てみて」の一言で広がっていくのだから、マーリング・ファンとして、そしてSFファンとして嬉しい限り。

 ちなみに、マーリングの右腕、ザル・バトマングリ監督の弟は、2013年にリリースされた最新作がビルボードのアルバムチャートで1位にもなったヴァンパイア・ウィークエンドの元中心メンバー、ロスタム・バトマングリ(昨年、バンドを脱退)。ニューヨークのブルックリン・シーン最重要バンドのキーマンであったロスタムは、本作『The OA』で劇伴を担当している。また、主人公が7年間監禁されていた「ある場所」で出会うことになる、主人公と同じく臨死体験をしたことのあるキューバ在住のシンガーを演じているのは、ブルックリン・シーンの人気シンガーソングライター、シャロン・ヴァン・エッテン(本作が女優としての初作品)。USインディー音楽好きにも見逃せない作品であることを、最後に付け加えておく。

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」主筆。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)。Twitter

■作品情報
『The OA』
Netflixにて配信中
https://www.netflix.com/title/80044950

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