嵐・櫻井翔、車椅子バスケに挑む青年を熱演! “感動ドラマ”を超えた『君に捧げるエンブレム』の迫力

『君に捧げるエンブレム』先行レビュー

 ドラマ評論家・成馬零一による連載“成馬零一の直球ドラマ評論”。新年第一回目は、嵐・櫻井翔が約二年ぶりに主演を務める新春大型ドラマ『君に捧げるエンブレム』(フジテレビ/1月3日(火)21時〜23時30分放送)を先行レビュー。先行試写会で披露された同作の見どころを考察する。(編集部)※メイン画像:(C)フジテレビ

 1月3日火曜日の夜九時から放送されるスペシャルドラマ『君に捧げるエンブレム』(フジテレビ系)は、事故によって脊髄を損傷して両足が動かなくなってしまった日本代表のプロサッカー選手・鷹匠和也(櫻井翔)が、車椅子バスケと出会ったことで再スタートを果たす姿を描いた、実話を元にした物語だ。

 身体障碍者の青年が車椅子バスケに挑戦する物語と言うと、感動的なヒューマンドラマ、それこそ日本テレビの「24時間テレビ」で放送されているような泣ける話を思い浮かべる人が多いかもしれない。もちろん、本作にも感動的なシーンは多いのだが、それだけを期待していると、気持ちのいい形でどんどん裏切られていき、物語は思ってもいなかった場所へと進んでいく。

 主演は二年ぶりのテレビドラマとなる嵐の櫻井翔。下半身が麻痺して動かないという難役を見事に熱演している。明るくさわやかだがプライドが高く、時に傲慢で自分勝手に見える鷹匠だが、そんな姿が不快にならずに人間臭いものとして魅力的に映るのは櫻井の持つ愛嬌があるからだろう。

 『家族ゲーム』(日本テレビ系)の不気味な家庭教師を筆頭に、ピュアな善人よりは、会話の節々にピリッとした皮肉を入れるような意地悪な男を演じた時の方が櫻井は活き活きしている。そんな櫻井の姿は、身体障碍者を一方的にかわいそうな被害者として描くのではなく、良いところも悪いところもある一人の人間として描こうとする本作のスタンスとうまく合致している。

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(C)フジテレビ

 婚約者として鷹匠を支える仲川未希を演じているのは長澤まさみ。昨年は大河ドラマ『真田丸』(NHK)での演技が高く評価された長澤だが、おおらかさの中にある強い包容力は見ていて気持ちがいい。同情や憐みではなく一人の人間として鷹匠と正面から向き合う彼女の姿は、本作の障碍者に対するスタンスをもっともあらわしている。

 鷹匠が所属する車椅子バスケチーム・Wingsのチームメイトの向井大隼を演じるのは屈強な肉体を誇る市原隼人。日本代表の不動のエース・神村練を演じる安藤政信は圧倒的なカリスマ性で、鷹匠の前に立ちはだかる。他にも香川照之、小林薫、倍賞美津子といったベテラン俳優が脇を固めており、鷹匠を中心とした激しい人間ドラマが次々と展開されていく。

 脚本を担当するのは安達奈緒子。IT業界を舞台にした『リッチマン、プアウーマン』(フジテレビ系、以下『リチプア』)やNetflixで配信されていた下着業界を舞台にした連続ドラマ『アンダーウェア』などを手掛けてきた筆力のある脚本家だ。『リチプア』を筆頭に、安達は自分の美学に対して正直に生きようとするカリスマ性のある人間が、その正しさによって周囲の人間を無自覚に傷つけてしまう姿を繰り返し描いてきた。本作でも、そのモチーフは健在である。

 安達の脚本は、登場人物を追い詰めて、劇中のテーマを徹底的に追及することで深みのあるドラマを紡いでいく。だから見ていて苦しくなることもあるのだが、そこを救っているのが『リチプア』以来、久々に組んだ演出家・西浦正記の存在だ。『ファーストクラス』(フジテレビ系)などの演出を手掛けてきた西浦の演出は、ポップでテンポがよく、いい意味で軽薄で大胆不敵だ。それが、身体障碍者になっても俺様キャラを貫いて車椅子バスケに一心不乱に打ち込む鷹匠のカッコよさにもつながっている。

 重たいテーマを重たく見せるのではなく、あえてオシャレでポップなものとして見せる西浦の演出は、安達のハードで重厚な脚本と相性がいい。
 
 中でも見ていて一番盛り上がるのは、車椅子バスケにおける選手たちの見せ方だろう。

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