『逃げ恥』過去最大級のヤキモキの渦! “対等な関係性の難しさ”に迫った第10話

『逃げ恥』が描く“意志と搾取のジレンマ”

 たとえば、平匡をリストラの対象として選出した沼田(古田新太)。リストラという酷な場面でも平匡との信頼関係が壊れなかったのも、一つひとつ言葉を選んで、丁寧に説明していく姿に愛があったからだ。平匡を大切に思うからこそ、誕生日を避けるなど、相手にとって最適なタイミングと誠実な対応を心がけたのだ。それほど相手に当たり前ではないことを受け入れてもらうには、慎重なすり合わせが必要なのだ。胃に潰瘍ができてしまうほど悩んでも、なお足りないくらいに。

 意思か搾取か。私たちはいつだってそのジレンマに直面している。本当は大切な相手ほど、個人の尊厳を守り、対等な関係性を築いていきたいもの。そのために必要なのが、丁寧なコミュニケーションだなんて、とっくの昔から知っていたつもりだ。でも、それが簡単そうで、なかなかできない。現代では多くの人が「自分らしく幸せに生きたい」と願うが、その目的を達成しようとすればするほど、他者との関係性に向き合わなくてはならないのだ。

 自己実現には、自分らしさを認めてくれる味方が必要なのだ。みくりの伯母・百合(石田ゆり子)も、「カッコよく生きなきゃ」と頑張ってきた。それが、本来は自分がしたいからではあるが、時々周りの期待に応えるために無理をしていたところもあると実感する。その本質的な気づきをアシストする風見に惹かれないわけがない。弱い部分も見せながら、より良い方向へと一緒に考えていく味方になっているのだから。人生を一緒に生きるパートナーと、どう向き合っていくべきか。それは、価値観のすり合わせをし続けることなのだろう。

 しかし、これほど重いテーマを掲げて、残りが1話しかないだなんて、信じられない。最終話は、どのような形で視聴者を「うむむ」と、唸らせてくれるのだろうか。キャラクターの数だけ幸せの数がある『逃げ恥』。それぞれが納得のラストを迎えてくれることを、楽しみにしたい。

(文=佐藤結衣)

■番組情報
『逃げるは恥だが役に立つ』
毎週火曜日よる10時〜
製作著作:TBS
原作:海野つなみ「逃げるは恥だが役に立つ」(講談社“Kiss”にて連載中)
脚本:野木亜紀子
出演:新垣結衣、星野源、石田ゆり子、藤井隆、真野恵里菜、葉山奨之、古田新太、宇梶剛士、富田靖子ほか
プロデューサー:那須田淳、峠田浩、宮﨑真佐子
演出:金子文紀、土井裕泰、石井康晴
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/NIGEHAJI_tbs/

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