『ミュージアム』大友啓史監督が明かす、“主演・小栗旬”の必然性「親心を知ったタイミングは重要」

『ミュージアム』大友啓史監督インタビュー

 『週刊ヤングマガジン』で2013年から2014年にかけて連載された巴亮介による原作コミックを、『るろうに剣心』シリーズや『秘密 THE TOP SECRET』の大友啓史監督が実写映画化した『ミュージアム』が、11月12日に全国公開される。本作は、自らを“アーティスト”と名乗る猟奇殺人犯“カエル男”(妻夫木聡)を追う刑事・沢村久志(小栗旬)が、捜査を行っていくなかでカエル男の罠にはまり、絶望へと追い込まれていく模様を描いたスリラーだ。リアルサウンド映画部では、メガホンを取った大友監督にインタビューを行い、主演に小栗旬を迎えようとした理由や、原作ものを映画化する際のポイントなどについて話を訊いた。

「最後まで“胸糞の悪い結末”にこだわった」

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大友啓史監督

ーー原作には出てこない新たな人物が登場したり、結末が大きく変わったりはしていますが、基本的に原作をかなり忠実に再現していましたね。

大友啓史(以下、大友):そうですね。原作のプロットがよくできていたので、必要なところ以外、無理矢理手を加える必要はないかなと。特にカエル男が最初に登場するあたりや物語が動き始めるところはよくできていると思いました。ただ、物語が進んでいくに連れて、二次元を三次元に創り上げていく上での根本的な違いは当然出てきますから、そのような部分やディテールなどにはしっかり手を入れましたね。根本的に胸糞が悪いというか、決して気分のいい物語ではないので、脚本を創る過程で最後ぐらいはハッピーエンドにという意見も出ました。でもこの作品は、ただ胸糞が悪いだけではない。2011年の震災以降、自分とは遠いと思っていた出来事がふと襲いかかってきて、自分自身や大事な人を奪っていくーーそういう不安が、現実的に身近になってしまった。それは自然災害だけではありませんよね。思いがけない誹謗中傷に突然晒されてしまう様なことは、今のネット社会においては誰にとっても他人事ではありません。この物語に描かれているような、そこに意思があるのかもわからないような漠とした恐怖が、いまの日本には確実に存在します。それをきちんと意識しながら作ろうと。原作とは違うエンディングを用意してますが、最後まで「胸糞の悪い結末」にはこだわりましたね(笑)。

ーーそもそも原作が非常に映画的な印象でした。

大友:原作の巴さんとはあまり話してませんが、きっと映画を観て育った人が書いた作品だろうなとは思ったんですね。それこそ僕も好きな『セブン』や『ソウ』や『オールドボーイ』のような映画を観た人が、それらを咀嚼して、いまの日本を舞台にストーリーを紡いだんじゃないかと感じるぐらい背景が見えたというか。それでも、ただの真似事だったり、なんかいいなってだけで気楽に書いたものだったら、きっと何も響かなかったと思うんですけど。何しろ原作者が持っている生理的なものが結構伝わってきたんですよね。映画化のオファーをいただいたときは、映像から始まって漫画になったものをまた映像化するわけなので、ちゃんと必然性を感じられる、地に足のついた嘘のない映画にすることを心がけようと。僕たちが現実に生きている社会での実感をベースに、それを武器にして作っていこうと、そう思いましたね。

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ーー原作からの改変部分に関して、巴さんはどのような反応だったんですか?

大友:特に話してないです。巴さんとは会ってはいるんですが、あまりちゃんと話せる時間がなくて。映画に関しても「どうでしたか?」と聞いたら、「よかったです」みたいな感じで(笑)。どこかでもっとお話をしたいなとは思っているんですけどね。実写化に対してのおかしなこだわりを押し付けてくるようなことはまったくなかったので、僕としてはすごくやりやすかったですね。変なことを言われると、こっちはこっちで「意地でも変えてやる!」ってなっちゃいますから(笑)。

ーー刑事が猟奇殺人鬼の犯行に巻き込まれていくという設定は、まさしく先ほど挙げていただいた、デヴィッド・フィンチャー監督の『セブン』が思い起こされますが、映画を制作するにあたって同作を意識をすることはありましたか?

大友:シェイクスピアの時代から物語の類型は36種類しかないと言われているものを、延々と手を替え品を替えやっているわけですから。過去に自分が観た映画、触れた作品とかに感化されていないこと自体が、まずありえないですよね。『るろうに剣心』を作ったときも、無意識に自分の好きないろいろなものに影響されていると思いますし。ただ、『セブン』はキリスト教の世界観のもとで成り立っていますが、日本ではキリスト教はもちろん、一般的に宗教がベースとして浸透していないので、構造的には似たものがあったとしても、そもそも全然違うものだという認識で始まっています。そういう意味では、この仕事をお引き受けすると決めてからはまったく意識していませんね。ディテールとしてはまったく別物ですから。むしろ、実際にこの映画を観た人がカエルのマスクをかぶって同じような類の事件を起こさないだろうかとか、現実との接点をいろいろ考えましたね。小栗くんが主演なのでメジャーな映画にもなっていくだろうけど、そういう考え得る悪影響も、フィクションのなかのものとして割り切っていいのだろうかと。胸糞の悪いものを観終わった後に、お客さんが何を持ち帰るのか、それぞれが持ち帰るものをどう想定して作ったらいいのかを、必死で探り当てようとしていた記憶があります。

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