志田未来、“地蔵ラップ”になぜ説得力? 『レンタル救世主』斬新な役柄を成立させた演技
今期のドラマで最もインパクトを残している女優といえば、『レンタル救世主』に出演している志田未来ではないだろうか。ドラマ視聴者なら誰もが衝撃を受けただろう、志田未来のラップと泣き顔の演技には強烈な“女優魂”が感じられ、ドラマ放映中にも関わらず、すでに伝説と化している。ドラマも中盤になり落ちついてきたところで、『レンタル救世主』における志田未来の魅力について改めて考察していきたい。
志田未来は、ドラマ『女王の教室』や『14歳の母』で子役としてブレイクし、若くして常に安定した演技でキッチリと役を演じ、道を外れる事なく順調に女優としての道を邁進してきた。人気が衰えることもなく今年に入ってもドラマ『とと姉ちゃん』や映画『泣き虫ピエロの結婚式』、『グッドモーニングショー』など立て続けに出演し、気がつくと大人の魅力も演じられる女優に成長していた、職人気質の若きベテランといえる。逆に安定しているが故に、一般的な若手俳優特有の魅力とされる演技の不安定さや危うさ、大胆な路線変更による面白味などはあまり感じられなかった。それが今回の『レンタル救世主』では、そのイメージを大きく覆された。
『レンタル救世主』は、お人好し過ぎる明辺悠五(沢村一樹)が連帯保証人で多額の借金を抱え、会社を懲戒免職となったことをきっかけに、どんな危険な仕事でも引き受けて依頼人の救世主となる会社“レンタル救世主”で働くという物語だ。志田未来演じる百地零子は、根暗で引っ込み思案ではあるが、実は資産家令嬢であることが後に判明するという役どころ。常に小声でブツブツ呟いていることから「地蔵ちゃん」というあだ名をつけられるほどで、学生時代の後輩からも見下されている。学校や家庭に居場所を見つけられない彼女は、辛ければ辛いほど人に「助けて」と言えなくなるタイプで、基本的にはこれまでの志田未来らしい役柄である。
本人曰く「今までの役でもやったことないし、実生活でもこれから先、やることはないだろうなってことに初挑戦しています」と言うほど、まず彼女のイメージを覆すのが、登場人物たちも「すげーブサイク」というほどの泣きの演技。ザブングル加藤の持ちネタである「くやしいです」を彷彿とさせる表情は、世界中の映画やドラマを見てもここまでの泣き顔を演じる女優はなかなかいない(いちおう念のために記しておくが、他のドラマでの志田の泣き顔はこれほどブサイクではない)。強いて言えば、現在放送中のドラマ『勇者ヨシヒコと導かれし七人』での木南晴夏なら、ムロツヨシのつっこみ込みで同等のインパクトのある表情を見せるかもしれないが。
物語当初はシリアス場面で泣いていたので、登場人物たちと同様に、視聴者もリアクションに戸惑ってしまったことだろう。零子がそれだけ感情表現が苦手で、人前で素を見せたことがないことを示す演技でもあるのだが、物語が進むにつれて、コメディパートでも泣きの演技を披露するので、そこでようやく笑っていいシーンだと気付く。これまでの志田未来のイメージがあるだけに、笑えるだけではなく、かなりドキドキさせられたものである。
さらに世間を驚かせたのが“地蔵ラップ”だ。世間ではMCバトルのバラエティ番組『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日)が流行し、ラップブームが再燃しているため、テレビドラマでラップを披露するものが出てきても不思議ではないのだが、まさか志田未来がラップを披露するとは予想しなかった。映画『天使にラブ・ソングを2』などアメリカのミュージカル映画では、登場人物が自分の心情を突如歌い出すことはあったが、日本語吹き替えになるとどうしても不自然になるものである。ましてや、日本の映画やドラマで突然歌い出すというのは、かなり異例のことだろう。ラッパーキャラがコメディリリーフとして韻を踏む姿を見た記憶はあるが、音楽映画でもないのにがっつりラップをするドラマは記憶にない。しかしながら、志田未来の感情むき出しの魂の叫びは、そのストレートな言葉と志田未来の鬼気迫る勢いで、とにかく見る者を圧倒する。最初は自分の感情を吐露するための表現だったが、物語が進むにつれて、彼女のラップは依頼主や敵たちの核心に迫り、その心を折るようになる。いまや、このどストレートな地蔵ラップが、ドラマ人気を支えていると言っても過言ではないだろう。