木村隆志のドラマトレンド解説
夏ドラマ、各局“奇策”も視聴率アップ繋がらず ネットユーザー向け戦略の是非考える
10月2日放送の『徳山大五郎を誰が殺したか?』(テレビ東京系)を最後に夏ドラマが終了。在宅率の低い季節やリオ五輪中継の影響もあって、平均2ケタ視聴率を超えたのが、『家売るオンナ』(日本テレビ系)、『仰げば尊し』(TBS系)、『刑事7人』(テレビ朝日系)の3本のみという苦境に陥った。
昨年夏あたりの段階から「2016年の夏はかつてないほど厳しい」と言われていただけあって、各局はあれこれと試行錯誤。さまざまな対策が施され、なかにはチャレンジングな“奇策”も見られた。
『好きな人がいること』(フジテレビ系)
・近年の胸キュン映画&ドラマに出演していた俳優を三兄弟とヒロインにした
『せいせいするほど、愛してる』(TBS系)
・物語に関係のないエアギターと一人カラオケでライブ感と笑いを生んだ
『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子』(フジテレビ系)
・猟奇的犯罪者によるグロテスクな死体の描写で衝撃を与えた
『家売るオンナ』(日本テレビ系)
・変人ヒロインの描写を極端にしつつ、効果音を多用した
『はじめまして、愛しています』(テレビ朝日系)
・子どもたちが夏休みの期間に特別養子縁組という繊細なテーマを選んだ
『神の舌を持つ男』(TBS系)
・作品を堤幸彦監督の世界観に染め、シュールな小ネタを詰め込んだ
奇策の共通点は、「ネットメディアの記事やユーザーのクチコミなど、オンラインでの反応を狙っていた」こと。「つい記事にしたくなる」「思わずツイートしたくなる」ネタを提供することでメディアとユーザーを食いつかせ、視聴率アップにつなげようというものだった。
しかし、視聴率や満足度などの指標で成果が見られたのは、『家売るオンナ』のみ。『好きな人がいること』や『せいせいするほど、愛してる』は、関連ツイートこそ多かったものの、視聴率や満足度などの指標では苦戦を強いられ、その他の作品はあまり話題を集めることなく終了した。
また、今夏最大の成功作『家売るオンナ』も、30年余りの歴史を誇る放送枠『水曜ドラマ』そのものの人気が大きく、歴代の作品と比べて特別良かったというわけではない。他ドラマとの比較上良く見えるだけで、「奇策が効果的だったか?」という観点では疑問が残る。
問題はドラマの作り手たちが、ネットメディアとユーザーを意識しすぎていたことだ。今夏のドラマは、ネット記事の見出しやユーザーのツイートになりそうな小ネタやクセのあるシーンを入れすぎて、ドラマ性や視聴者の共感を削いでしまうシーンが多かった。
そうした奇策を喜ぶライトな視聴者層もいるが、一般的なドラマ視聴者は必ずしもそうではない。その証拠にドラマの内容で評判が良かったのは、学園ドラマの『仰げば尊し』(TBS系)、ビジネスドラマの『HOPE~期待ゼロの新入社員~』(フジテレビ系)、本格ミステリーの『そして、誰もいなくなった』(日本テレビ系)という各ジャンルのスタンダードな作品だった。いずれの作品も奇策に走ることはなく、「人間ドラマをストレートかつ丁寧につむいでいこう」というスタンスで制作され、それが視聴者の心をつかんだのではないか。
思えば、ロンドン五輪が開催された4年前も、無国籍児を扱った『息もできない夏』(フジテレビ系)、18年ぶりに復活した『GTO』(フジテレビ系)、同一作家のオムニバス『東野圭吾ミステリーズ』(フジテレビ系)、シナリオ大賞をドラマ化した『黒の女教師』(TBS系)、幽霊ママ警察官と息子が事件を解決する『ゴーストママ捜査線』(日本テレビ系)、標高2514mの診療所を描いた『サマーレスキュー~天空の診療所~』(TBS系)などのさまざまな奇策が見られた。果たして地元開催となる4年後の2020年も、奇策の歴史は繰り返されるのだろうか。